新型量子ドットを開発、光子−電子変換効率3倍へ:長距離量子暗号通信などを可能に
大阪大学とカナダ国立研究機構(NRC)の研究グループは、光子−スピン量子インタフェースの変換効率を、従来に比べ3倍改善することが可能となる「新型量子ドット」を開発し、そのスピン特性も明らかにした。長距離の量子暗号通信や量子インターネット構築に向けた量子中継器への応用が期待される。
対称性の低い(110)面上のGaAs量子ドットを形成
大阪大学とカナダ国立研究機構(NRC)の研究グループは2022年4月、光子−スピン量子インタフェースの変換効率を、従来に比べ3倍改善することが可能となる「新型量子ドット」を開発したと発表。そのスピン特性も明らかにした。長距離の量子暗号通信や量子インターネット構築に向けた量子中継器への応用が期待される。
光ファイバー網を活用して量子情報を長距離伝送するには、量子中継器が必要となる。この量子中継器には、単一光子の偏光にのせた量子情報を、半導体量子ドット中の単一電子スピンへ変換する機能が求められる。
ところが従来の量子中継器だと、1万〜10万回光子を照射しても1回程度しか量子ドット中の単一電子スピンへ変換されず、変換効率の低さが課題となっていた。この理由として、これまで用いられてきた(001)面上のGaAs量子ドットは、光子から電子スピンへの量子状態変換が、軽い正孔状態を励起することでしか、行えなかったことを挙げる。
大阪大学の大岩顕教授らとNRCのAusting博士らによる研究グループは今回、対称性の低い(110)面上のGaAs量子ドットを開発し、電子スピン状態を決定するg因子を測定した。
開発したのは、(110)面上のGaAs/Al0.33Ga0.67As量子井戸構造を使った横型量子ドットである。(110)面上のGaAs量子ドットは、重い正孔も面内磁場下でスピン分裂を起こし、量子状態変換が可能となる。理論的には光子−電子スピン量子インタフェースの変換効率を、従来に比べ3倍も改善できるという。
g因子を測定するためGaAs2重量子ドットを実現し、スピン依存ドット間電子トンネルによる電流を解析した。その結果、電子スピンのg因子が0.1であることを明らかにした。
上図は光子−電子スピン量子状態変換の模式図。下左図は(110)面上GaAs2重量子ドットの2つのドット中の電子数が、ゲート電圧で1つずつ変化する様子を表した電荷状態安定図、下右図は2電子領域のスピン依存電流の磁場依存性 出所:大阪大学、NRC
研究グループは今後、表面プラズモンアンテナや別のナノフォトニック構造と組み合わせることで、光子から電子スピンへの変換効率をさらに改善していく予定である。これによって、実用化に向けた量子中継器の研究や開発が、さらに加速されるとみている。
今回の成果は、大阪大学産業科学研究所の中川智裕氏(研究当時は理学研究科博士後期課程)や藤田高史助教、大岩顕教授(兼量子情報・量子生命研究センター)と、NRCのDavid Guy Austing博士、Louis Gaudreau博士の研究グループによるものである。
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