産総研ら、140GHz帯メタサーフェス反射板を開発:ポスト5G/6Gの通信エリア拡大へ
産業技術総合研究所(産総研)は、大阪大学と共同で、「140GHz帯メタサーフェス反射板」を開発した。ポスト5G/6Gと呼ばれる次世代の移動通信において、電力消費を抑えつつ通信エリアの拡大が可能となる。
構造を最適化し、特定方向以外の不要反射をほぼ完全に抑える
産業技術総合研究所(産総研)物理計測標準研究部門電磁気計測研究グループの加藤悠人主任研究員は2021年11月、大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻の真田篤志教授と共同で、「140GHz帯メタサーフェス反射板」を開発したと発表した。ポスト5G/6Gと呼ばれる次世代の移動通信において、電力消費を抑えつつ通信エリアの拡大が可能となる。
メタサーフェスとは、電磁波の波長よりも十分に小さい構造体を、表面や内部に配列して構成されたシート状の人工構造体で、入射角とは異なる角度に反射する「異常反射」などの特性を示す。
ポスト5G/6Gでは、100GHzを超えるミリ波帯の利用が検討されている。ミリ波帯は高速大容量通信を可能にするが直進性が強く、電波を遮る建物などが多い場所では通信圏外になりやすいという。
こうした中で基地局をなるべく増設せずに、通信エリアを効率よく拡大する方法の1つとして、メタサーフェス反射板の活用が注目されている。建物の壁や窓などに配置したメタサーフェス反射板が、基地局からの信号を中継し通信を可能にするからだ。しかしこれまでは、ミリ波帯において誘電体基板の複素誘電率や金属層の導電率を高精度に計測することができず、ミリ波帯向けのメタサーフェス反射板は開発されていなかったという。
産総研はこれまで、高精度のミリ波帯材料計測法として、平衡型円板共振器法を用いた誘電率・導電率計測の研究を行い、従来のフリースペース法に比べ不確かさを10分の1以下とするなど、高い精度を実現してきた。また、大阪大学と共同で、6Gに向けたメタサーフェスによる電磁波の高度な伝搬制御の研究を進めてきた。今回はこれらの材料計測技術を活用して、140GHz帯メタサーフェス反射板の開発と実証を行った。
開発したメタサーフェス反射板は、裏面を金属で覆った誘電体基板の表面に、サブミリ単位の金属パッチを周期的に配列した構造となっている。誘電体基板は、ミリ波帯で損失が少ないシクロオレフィンポリマーの表面に、銅メッキの金属層を形成したものを用いた。
金属パッチの構造設計を行うため、平衡型円板共振器法を用い誘電体基板の複素誘電率と金属層の導電率を計測した。そして、材料パラメータに対する最大121GHzまでの周波数依存性の計測結果を基に、140GHzでの値を推定した。
今回は、垂直入射からそれぞれθR=45°、60°、75°方向に異常反射する3種類の140GHz帯メタサーフェス反射板を設計。特定方向へ異常反射が発生するよう、金属パッチの周期を決めた。さらに、構造を最適化することで不要反射をほぼ完全に抑制し、特定方向への反射効率を高めた。設計したメタサーフェス反射板は材料損失を除いた効率で99%を達成したという。
設計したメタサーフェス反射板を試作し、その性能評価を行った。実験では、送信アンテナから反射板に垂直に電磁波を照射し、受信アンテナの角度θを変えながら反射率を求めた。
この結果、140GHz近傍において、設計した異常反射方向(θR方向)への反射が大きく、不要反射が生じる可能性のある鏡面反射方向(θ=0°)と対称方向(θ=−θR)は抑えられていることが分かった。これら2方向の不要反射合計が最小となる動作周波数において、不要反射は異常反射に比べ、それぞれ1/140以下、1/293以下、1/28以下である。各反射板に対し、動作周波数における反射率の角度依存性を計測した結果からも、異常反射動作を確認することができたという。
今回は、アンテナと反射板の距離が短く、入射波のビーム径が小さい環境で実験を行った。これらのデータを基に、実使用環境下での効率を推定した。この結果、メタサーフェス反射板の材料損失を含んだトータルの反射効率は84%となった。同じくθR=45°と75°の反射板においても、それぞれ88%と82%という高い反射効率が得られることを確認した。
研究グループは今後、動作周波数300GHzまで対応するメタサーフェス反射板の開発や反射方向の動的制御、マルチバンド動作など高機能化に向けた研究を続けていく計画である。
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