BaTiO3ナノキューブの粒径制御法を新たに開発:出発原料の粒径が大きく影響
茨城大学や大阪大学、東北大学らの研究グループは、酸化チタン(TiO2)の粒径を制御すれば、チタン酸バリウム(BaTiO3)ナノキューブの大きさが制御できることを明らかにした。BaTiO3ナノキューブの粒径を自在に制御することができれば、電子デバイスの誘電率を飛躍的に向上させることが可能になるという。
電子デバイスおける誘電率の飛躍的向上に期待
茨城大学や大阪大学、東北大学、日本原子力研究開発機構らの研究グループは2021年11月、酸化チタン(TiO2)の粒径を制御すれば、チタン酸バリウム(BaTiO3)ナノキューブの大きさが制御できることを明らかにした。BaTiO3ナノキューブの粒径を自在に制御することができれば、電子デバイスの誘電率を飛躍的に向上させることが可能になるという。
強誘電体のBaTiO3は、積層セラミックコンデンサーとして携帯電話やPCなど、多くの電子機器に用いられている。BaTiO3を用いた誘電体材料の性能をさらに高めるには、BaTiO3の粒径制御が重要となる。
BaTiO3ナノキューブの合成にはこれまで、薬品のTiO2(粒径25nm以下)が用いられていた。ところが、この合成方法だと粒度にばらつきが生じ、粒度分布を狭くする必要があった。TiO2の凝集によって、均一な核生成が難しくなるからだという。
研究グループは今回、水溶性チタン錯体を用いて分散性に優れたTiO2ナノ粒子を合成することから始めた。これを出発原料とすれば核生成の量が増えて、BaTiO3ナノキューブの均一性向上と微粒子化が可能になると判断した。
実験では、水溶性チタン錯体の配位子として「グリコール酸」「乳酸」「くえん酸」「D(−)−酒石酸」「L(+)−酒石酸」の5種類を、水熱法の溶媒として「硝酸水溶液」「水」「アンモニア水溶性」の3種類を用いて合成を行った。この結果、配位子に「乳酸」、溶媒に「水」を用いると、分散性が良好なTiO2ナノ粒子を得ることができたという。
このTiO2を出発原料とし、水熱法によりBaTiO3ナノキューブを合成した。この結果、BaTiO3ナノキューブの粒径には、出発原料の粒径が影響していることが分かった。
合成したBaTiO3ナノキューブについて、大型放射光施設「SPring-8」を活用してX線回折(XRD)測定を行い、その後にリートベルト解析や二体相関分布関数(PDF)解析を実施した。リートベルト解析によって、BaTiO3ナノキューブは正方晶系を示すことが分かった。PDF解析の結果から、BaTiO3の自発分極の起源となるサイトを見いだすことができたという。
続いて、球面収差補正付き電子顕微鏡を用い、BaTiO3ナノキューブの原子カラムを観察した。BaTiO3はペロブスカイト構造となっているが、BaTiO3ナノキューブ粒子の内部は、規則正しく原子が配列していることが分かった。一方、BaTiO3ナノキューブ粒子の最表面は、粒子内部とは異なる原子配列となっており、表面再構成を構築しているという。この表面再構成において、BaTiO3のナノキューブを集積し、粒子の界面をひずませることができれば、大きな誘電特性の発現が期待できるとみている。
BaTiO3ナノキューブを三次元化しX軸、Y軸、Z軸方向から観察した。そうすると、BaTiO3は立方体の形状であることが分かった。スライスした画像からBaTiO3ナノキューブの粒子内部を確認すると、空洞はなく内部が密になっていることも明らかとなった。
今回の研究成果は、茨城大学大学院理工学研究科(工学野)の中島光一准教授、同研究科量子線科学専攻・博士前期課程の廣中航太氏と大内一真氏、茨城大学工学部の味岡真央氏、茨城大学大学院理工学研究科の小林芳男教授、大阪大学産業科学研究所の関野徹教授と垣花眞人特任教授(常勤)、東北大学多元物質科学研究所の殷シュウ教授および、日本原子力研究開発機構の米田安宏研究主幹らによるものである。
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