深刻な半導体模倣品問題、ブロックチェーンで対策へ:SEMIが規格策定に向け準備中(2/2 ページ)
半導体不足が続く中、半導体デバイスの模倣品が市場に流通するという問題が深刻化している。業界はどのような手を打てるのか。半導体の業界団体であるSEMIジャパンは2022年5月24日に開催した記者説明会で、ブロックチェーンの適用など、模倣品対策の規格化を進めていると語った。
ブロックチェーンを活用した模倣品対策
具体的には、半導体の品質情報や診断情報を、SEMIが標準化したブロックチェーンに書き込み、サプライチェーンのプレイヤーが参照できるような仕組みを構築する。トレーサビリティを素早く行い、サプライチェーンの途中で不正に入り込むデバイスを発見して排除することを狙う。
半導体の後工程(半導体メーカーあるいはOSAT[Outsourced Semiconductor Assembly & Test])で検査が完了すると、デバイスのパッケージに型番やシリアル番号などが刻印される。その段階で、デバイスのデータを、自社のデータベースだけでなくブロックチェーンにも書き込む。
ブロックチェーンを用いたトレーサビリティ。完成した半導体デバイスのデータをブロックチェーンに書き込む(図中の⑤)と、そこから先のPCB(プリント配線板)サプライヤーやティア1サプライヤー、機器メーカー(図中の⑥以降)がブロックチェーンに書き込まれたデータをいつでも参照できるようになる[クリックで拡大] 出所:SEMIジャパン
従来、例えば自動車メーカーが、モーターに搭載されている半導体デバイスのトレーサビリティを実施するには、まず車両の識別番号(ID)からモーターのIDをたどり、そこからモーターメーカーに問い合わせてPCBのIDを特定。次にモーターメーカーが、PCBの実装を行ったメーカーに問い合わせて、PCBに搭載されている半導体デバイスのIDを特定、そのIDを基に半導体メーカーに問い合わせるという、“バトンリレー”を行う必要がある。
それに対して、SEMIが作成中の規格では、サプライチェーンのプレイヤーが自由にブロックチェーンに問い合わせることができる。半導体デバイスのID、PCBのID、モジュールのID、最終製品のID情報を自社のデータベースに持っていれば、直接ブロックチェーン上のデータを参照することで、バトンリレーをすることなく、デバイス/部品の品質証明や出荷履歴などを素早くでたどれるようになる。
ブロックチェーンを用いる理由としては、データの改ざんが極めて難しいことが挙げられる。分散型台帳技術の一つであるブロックチェーンは、改ざんしようとしても書き直す箇所が多すぎて、データの修正(改ざん)は事実上不可能だ。その他、半導体のサプライチェーンに関わる多様なメーカーが参加しやすいこと、サーバ依存性がないP2P(ピア・ツー・ピア)ネットワークなのでシステムダウンの可能性が低いこと、大規模なサーバを持たないためサーバ費用や保守点検費用が抑えられ、ランニングコストが安価であるという利点もある。
サプライチェーン管理への応用にも期待
トレーサビリティだけでなくサプライチェーンの管理においても、可能性が広がると角淵氏は語る。例えば現在、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から、カーボンフットプリントや原材料、生産地などの情報を求められることがある。そうした情報も、半導体デバイスの情報にひも付けてブロックチェーンに書き込むことで、企業が情報を確認しやすくなる。さらに、半導体デバイスに関連する情報を正しく、素早く入手できるようになることは、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化にもつながる。「企業グループや業界、国を超えてブロックチェーンにアクセスできる仕組みができれば、半導体デバイスの真偽判定や調達に関する情報の混乱を抑えることができ、それが最終製品の産業強化につながるのではないか」(角淵氏)
なお、実際の運用については、「コンソーシアムなどを作って普及していく必要がある」と角淵氏は述べた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 日本最高峰のブロックチェーンは、世界最長を誇るあのシステムだった
「ブロックチェーン」とは、工学的プロセスによって生成される「人工信用」である――。私は今回、この結論を導き出しました。ブロックチェーンとは、つまりは与信システムだと考えられますが、では、この日本における「最高峰のブロックチェーン」とは何だと思いますか? - 「バンクシーの絵を焼き、NFT化する」という狂気
「ブロックチェーン」シリーズの最終回となる今回は、ここ数カ月話題になっている「NFT(Non-Fungible Token)」を取り上げます。バンクシーの絵画焼却という衝撃的(?)な出来事をきっかけに広がったバズワード「NFT」。これは一体、何なのでしょうか。いろいろと調べて考察した結果、「バンクシーの絵画を焼いた奴はバカ」という結論に達した経緯とともに解説します。 - 続報・3MのPFAS生産停止、今は「嵐の前の静けさ」なのか
3Mのベルギー工場がPFASの生産を停止した。今回は、その影響についての続報として、代替品の調達状況や、PFAS生産停止に至った背景、今後想定される事態を論じる。 - 半導体不足の影響、新興企業にも波及
半導体不足はいまだに続き、解消のメドは立っていない。それどころか、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束も見えず、ロシアによるウクライナ侵攻が発生するなど、半導体関連のサプライチェーンが不安定になる要素は増えている。それに伴って、半導体製造の“自国回帰”の動きが進み、半導体への投資は加速している。こうした状況は、ハイテク関連のベンチャー企業にどのような影響を与えているのだろうか。 - 「供給網を分断せず、フェアな開発競争を」、SEMIジャパン代表
マイクロエレクトロニクス製造サプライチェーンの国際展示会である「SEMICON JAPAN」(2021年12月15〜17日)が、2年ぶりに東京ビッグサイトで開催される。半導体業界では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックや半導体不足といった困難が続く一方で、それらが市場成長を後押しし、2021年の世界半導体市場規模は過去最高となる見通しだ。SEMIジャパンの代表取締役を務める浜島雅彦氏に、今回のSEMICON JAPANの狙いの他、昨今の半導体業界の動向や課題に対する見解を聞いた。 - 世界半導体生産能力、57%をトップ5社が占める
米国の市場調査会社Knometa Research(以下、Knometa)によると、Samsung Electronics(以下、Samsung)とTSMC、Micron Technology、SK hynix、キオクシア/Western Digital(以下、WD)の世界シリコンウエハー生産量のシェアは、2021年末までに合計57%に拡大したという。Knometaは報告書の中で、「業界がトップヘビー構造になっていることで、これら企業のシェアは2020年から1%増加した」と述べている。