自作の「金融商品自動売買ツール」をGo言語で作ってみる:「お金に愛されないエンジニア」のための新行動論(3)(1/9 ページ)
「老後のための投資」について、どうも“着火”(やる気に火がつくこと)しません。だとしたら、私が大好きな趣味の世界に、このテーマを持ち込むしかありません。というわけで、私は、大好きなシミュレーションを利用できる、「金融商品自動売買ツール」の構築を目指すことにしました。
今回のテーマは、すばり「お金」です。定年が射程に入ってきた私が、あらためて気づいたのは、「お金がない」という現実でした。2019年には「老後2000万円問題」が物議をかもし、基礎年金問題への根本的な解決も見いだせない中、もはや最後に頼れるのは「自分」しかいません。正直、“英語に愛され”なくても生きていくことはできますが、“お金に愛されない”ことは命に関わります。本シリーズでは、“英語に愛されないエンジニア”が、本気でお金と向き合い、“お金に愛されるエンジニア”を目指します。⇒連載バックナンバー
「好きなこと」はある意味「洗脳」によってつくられる
ある日、深夜の0時を過ぎた頃、階段をバタバタと上ってくる足音の直後、ガラっと、私の部屋の扉が開きました。そこには、腰に両手を当てて、胸を張って立っている長女がいました。
「パパ! JKの娘の17歳の誕生日だよ!! 何か言うことはないの?」
「そうか、それなら、人生の先輩として、言葉を贈ろう」
といって、私は語り始めました。
江端:「『好きなことだけをやって、人生を生きなさい』というようなことを語る大人が、これからお前の前に山ほど現れる、と思う」
長女:「それで?」
江端:「こいつらは、会話する前から『低能』と決めつけてよい。もちろん、そんな話は全てスルーしてよい」
長女:「なんで?」
江端:「『好きなことだけをやって、人生を生きる』というようなことが可能だと思っている時点で、そいつは、どうかしているからだ」
長女:「なんで?」
江端:「簡単に反例が作れるからだよ。例えば、『毎日、北極ラーメンを食べる』という好きなことだけをやって人生を生きるためには、『北極ラーメン(野菜入り)920円を稼がなければならないだろ?」
長女:「そりゃそうだ」
江端:「『北極ラーメンを毎日食べ続ける』ためには、『北極ラーメンを毎日食べ続ける』以外のこと、仕事とか勉強とか、尊敬できない上司との飲み会に出席するとか ―― そんなことも、やらなければならない」
長女:「パパの人生の目的って、『北極ラーメン』?」
江端:「そうではなくて ―― 『好きなこと』の下には、それを支える膨大な『好きでないこと』の蓄積がある、ということだよ。そして、この程度のことは、『好きなこと』を実施している人なら、誰だって知っていることだ」
長女:「それで?」
江端:「ここから導かれる結論は『好きなことだけをやって、人生を生きなさい』というようなことを語る奴は、(A)『好きなこと』をやっていないか、(B)『好きなこと』を勘違いしているだけの、いずれかだ」
長女:「(A)はともかくとして、『(B)『好きなこと』を勘違いしている』って、どういうこと?」
江端:「自分で、自分を洗脳している、ということだよ」
ブラック企業では、社員に対して、スペルアウト(書き出し)させることを重視しています。
スペルアウトする内容は、目標(ノルマ)だけではなく、その集団のポリシーの他に、『私には価値はありません。私の価値を与えてくれるのは会社です』という内容を、何度も唱えさたり、紙に書き出させたり、それを壁に張り付けさせたりします。
これ、実に理にかなった「洗脳」です。なぜなら、外部から情報を与え続けるよりも、自分の言葉や文字という「有体物」を自分で作って、発表させることで、洗脳は、その効果を発揮するからです。
これ、実は、ブラック企業だけではなく、私たちの通常業務でも、普通に行われています ――ただ、それが「洗脳」と認識されていないだけです。
私が所属している研究所では、学会発表は会社の業務(ノルマ)でもあります。ノルマですので、自分では『うまくいなかった』『成果に満足していない』と思っている研究成果であっても、発表を行うことがあります。
しかし、当然のことながら、論文や、学会発表で『うまくできなかった』と言うことはできません。これを、『(うそをつかずに)どのような表現で語るか』に、研究員の力量が問われます。
論文提出の締め切りや、学会発表日までに、論文や、発表用資料は、何度も修正し、書き直しをし、そして、発表練習をしなければなりません。
論理的に破綻しない、筋の通ったストーリーとして組み上げなければなりません。もし、英語で発表するとなれば、できるだけ短文で、完結で、分かりやすい表現を考えなければなりません。
これを、何度も、何度も、何度も、何度も繰り返します ―― 実はこれ、立派な「洗脳」のプロセスです。
私の場合、論文の書き直しは10回以上、発表資料は20回以上、そして発表練習(特に、英語の場合)は30回以上繰返します。
これだけ繰り返すと、
―― この研究には価値があります。その機会を与えてくれたのは会社です
という気持ちになってきます(本当)。こうして、研究員は、自分で自分の洗脳を完了するのです―― まとめますと、論文投稿や学会発表会は「自己洗脳装置」です。
長女:「―― で、パパはこの長い話で何が言いたいの?」
江端:「つまり、『好きなこと』とは、自分の中で自然に発生するものではなく、組織や、環境(境遇)や、時代や、トレンドなどのような『自分以外のものによって作られる』という、事実だよ」
長女:「ああ、だから、『好きなことだけをやって、人生を生きなさい』というアドバイスは、そもそも成立しない、と」
江端:「そう、つまり、自分の中で自然に発生するような『好きなこと』は存在しない。それが正常。特に、社会人としての経験がない、大学進学などを控えたティーンエィジャに、明確な未来の目標があったら、私は『気持ち悪い』とすら思う。その程度の知見から出てくる「好きなこと」なんて、すごく狭い視野での、偏った思い込みの可能性が高いからね(筆者のブログ)」
それでは、まとめよう。
(1)「やりたいことを、やりなさい」とか言っている奴は、基本的に"分かっていない"
(2)私たちの多くは「やりたいこと」など持っていない。与えられた条件の中で「やれることをやるだけ」である
(3)私たちは、「やれること」を「やりたいこと」にすりかえて、あたかも「やりたいことをやって生きている」ように自分を洗脳しながら生きている
上記の3つを踏まえて、JKの娘の17歳の誕生日に、父から娘へ言葉を贈ろう。
『「やりたいこと」とか「やりたくないこと」とか気にしないで、毎日、目の前にあることに、ドタバタと対応しながら生きていくだけで、十分じゃね?』
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