ローム筑後工場のSiC製造、2024年をメドに8インチに:2025年度にシェア30%を目指す
ロームは2022年6月8日、ローム・アポロ筑後工場(福岡県筑後市)に完成したSiCパワーデバイスの新製造棟(以下、SiC新棟)の開所式に併せて、SiCパワーデバイスの事業戦略を紹介した。
ロームは2022年6月8日、ローム・アポロ筑後工場(福岡県筑後市)に完成したSiCパワーデバイスの新製造棟(以下、SiC新棟)の開所式に併せて、SiCパワーデバイスの事業戦略を紹介した。
ロームは2021年度(2022年3月期)、売上高が過去最高となる4521億円を記録した。2021〜2025年度の中期経営計画では、売上高目標を当初計画の4700億円から6000億円に上方修正し、営業利益率は20%、ROE(自己資本利益率)では9%を目指している。その中で、中核となるのがパワーデバイスとアナログLSIだ。
特にパワーデバイス事業は、市場の年平均成長率(CAGR)を上回る成長率で伸びていくと予測する。具体的には、パワーデバイスの世界市場において、2020〜2025年のCAGRは11%のところ、同時期のロームのパワーデバイス事業は、CAGR21%で成長する見込みだ。同社のSiCパワーデバイス事業に限ってみれば、48%とさらに高いCAGRを予測している。
SiCパワーデバイスでは30%のシェア獲得を目指す
SiCパワーデバイス事業では、2025年度(2026年3月期)に売上高1000億円、30%のシェア獲得を目指す。2021〜2025年度にかけて累計1200億〜1700億円の設備投資を行い、2025年度には、生産能力を2021年度比で6倍以上に増強する計画だ。
だが当然、国内外の競合他社も、SiCパワーデバイスの成長を見込んで攻勢をかけてくるはずだ。ローム 代表取締役社長の松本功氏は、「当社のSiCパワーデバイス事業は、チップ(ダイ)、パッケージ、モジュールの全てを網羅して提供できることと、常に最高性能を訴求することを2本柱として、強みを追求していく。現在、2022年度から2025年度の3年間の案件金額が、累計で8400億円に達している。これはそのまま顧客の期待値でもある。8400億円のうち何パーセントかを確実におさえていけば、おのずと売上高1000億円を達成でき、シェア30%にもつなげることができる」と強調した。
8インチへの移行も進める
ローム・アポロ筑後工場のSiC新棟も、生産能力強化の一環であるが、松本氏は「単に生産能力を強化するだけでなく、現在の6インチSiCウエハーから8インチへの移行を進めるなど、生産効率の向上も図る」と述べる。
ロームグループの1社で、SiCウエハーメーカーであるドイツ・SiCrystalは、既に8インチSiCウエハーの開発を完了しており、2023年から外販を開始する予定だ。ロームでの適用は2024年を予定している。実際、筑後工場のSiC新棟の製造設備は全て8インチウエハーに対応するものだ。現在は、8インチ対応の設備に、6インチウエハーを流している。
SiC新棟での量産開始は2022年12月で、「途中で8インチウエハーに切り替えながら、2025年度に向け急ピッチで生産能力を伸ばしていく」(松本氏)とする。
松本氏は課題の一つとして人材の獲得を挙げた。人材不足は、パワーデバイス分野のみならず半導体業界共通の課題だ。ロームは、新卒の採用に向け大学との関係も構築しながら、雇用体制の強化を図る。筑後工場では、2022年からの4年間で約150人を採用する計画だ。
松本氏は「当社の強みはIDM(垂直統合メーカー)であること。製造と開発をすり合わせ、品質をコントロールしながら安定供給が可能だ。パワーデバイスでもIDMの強みを生かして技術に磨きをかけていく」と語った。さらに、いろいろな災害に見舞われてきた中、得られた教訓を生かし、「二度と生産ラインを止めないために最大の対策を盛り込んでいるのが、SiC新棟だ」と続け、SiCパワーデバイスの安定した供給に貢献することを強調した。
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