潮目が変わりつつある世界半導体市場 ――2022年後半以降の半導体市況展望:大山聡の業界スコープ(54)(3/3 ページ)
今回は、2022年後半および、2023年以降の半導体市況の見通しについて私見を述べさせていただく。
2023年はマイナス成長に転じる?
全体の結論として、2022年の世界半導体市場は2021年比15〜20%程度の成長が見込めるものの、2023年はメモリ市場が2ケタのマイナス成長に落ち込む可能性が高いこと、それ以外の市場についても成長率が鈍化する傾向にあること、などにより、2019年以来のマイナス成長になるのではないか、と筆者は予測している。そして今、まさに半導体市場の潮目が変わる局面、いわゆるターニングポイントに差し掛かっている、と考えるべきだろう。
上図は、世界半導体前工程製造装置(SPE)、DRAM、NAND型フラッシュメモリ各市場の対前年同月比成長率(3カ月移動平均)をグラフ化したものである。これを見ても明らかなように、SPE市場とメモリ市場の動向には強い相関関係があることが分かる。
筆者はこの相関性の強いサイクルを長年に渡って観察しており、2020年にメモリ市場の強い回復を期待していたのだが、コロナ禍のパンデミックで世界中の生活や経済活動が混乱し、電子機器の需要にも悪影響があった。2020年前半は巣ごもり需要でPCやゲーム機などが好調だったが、スマホやクルマは需要が低迷し、同年後半にはクルマの需要が急回復するなど、コロナ禍で何が必要で何が不要なのか、世界中が混乱に陥ったのである。結果としてメモリ市場も一定の回復は見せたものの、期待していたほどには盛り上がらないまま、2021年末あたりから徐々にピークアウトしようとしている。
これまでの動向をもう少し補足すると、2021年初頭あたりから「半導体不足」が広く注目されるようになった。マイコン、アナログ、ディスクリート、先端ロジックなど、あらゆる半導体が不足状態に陥ったが、メモリは不足状態にならなかった。DRAMもNANDフラッシュも、前回のピーク時には単価が上昇しており、不足状態になっていたことを裏付けているが、2021年以降は双方とも単価が安定しており、「過剰でもなければ不足でもない」ことを裏付けている。
それ以外の半導体については、まだ不足問題は解決していないが、ファウンドリー各社においては「受注金額がピークアウトしている」「キャンセルも発生するようになった」というコメントが聞かれるようになった。ただし、これまでに積み上がった受注残が大きいので、各社ともほぼ100%の稼働率を維持しているし、値下げに応じるつもりは当面はなさそうだ。しかし、ウクライナ危機の継続や中国のロックダウンなど、世界経済にマイナス影響を及ぼしそうな問題が発生していることで、電子機器の市場にも悪影響が出ているはずである。半導体の需要に影響することは必然であり、これがファウンドリー各社のコメントにも現れている、とみるべきだろう。半導体不足についても、解決するのは時間の問題ではないだろうか。
2022年半ばに市況の潮目が変わる可能性がある
結論として、筆者は「2022年半ばに市況の潮目が変わる可能性がある」という今までの主張を維持し、2023年にはマイナス成長を覚悟する必要がある、とみている。希望的観測で言わせていただければ、ファウンドリーに生産委託している各社が一斉にキャンセル行動に出るなど、急速なブレーキを踏むような事態を避けてもらいたい、と願うばかりである。半導体不足が社会問題になってから1年半、不足感は仮需を増大させ、予想以上の値上げに発展するなど、業界の異常な過熱ぶりが続いているので、今後は上手くソフトランディングできる道を業界全体で探っていただきたいものである。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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