量子計算機の量子多体計算エラーを効率的に除去:一般化量子部分空間展開法を提唱
東京大学やNTTコンピュータ&データサイエンス研究所、産業技術総合研究所および、大阪大学による共同研究グループは、量子コンピュータによる量子多体計算のエラーを、効率的に除去する手法を開発した。この手法は、演算精度が比較的低い量子ビットを多数備えている量子コンピュータで、その威力を発揮するという。
ハードウェア由来とアルゴリズム由来のノイズを同時に抑制
東京大学やNTTコンピュータ&データサイエンス研究所、産業技術総合研究所および、大阪大学による共同研究グループは2022年7月、量子コンピュータによる量子多体計算のエラーを、効率的に除去する手法を開発したと発表した。この手法は、演算精度が比較的低い量子ビットを多数備えている量子コンピュータで、その威力を発揮するという。
量子コンピュータは、量子状態の重ね合わせおよび、その干渉によって計算を実行する。現行コンピュータに比べ演算性能を飛躍的に向上させることができるため、最も注目されている分野の1つである。ところが、精密に演算を実行するためには、解決すべき課題もあるという。例えば、外部環境との相互作用や、ハードウェアの不完全性などによって生じるエラー(誤り)を抑制することである。
研究グループは、起源が明確ではないさまざまなノイズの影響を受けた量子状態を、複数個並列に準備し、互いに干渉させればノイズを実行的に打ち消すことが可能となり、量子多体系のエネルギー固有状態を計算する時のエラーを、効率的に抑制できることを発見した。
研究グループは今回、効率よく量子エラーを除去する手法として「一般化量子部分空間展開法」を提案した。この効果が最も発揮されるのは、ノイズの影響を受けた量子状態が複数準備された状況だという。
実験では、さまざまな種類のノイズを受けた量子状態について、演算結果を読み出す直前に、互いを干渉させた。こうして得られた演算結果を組み合わせたところ、ハードウェアに由来するノイズとアルゴリズムに由来するノイズが同時に抑制され、量子部分空間展開法や仮想蒸留法といった手法に比べ、精密な計算が可能になることが分かった。この結果、変分量子固有値ソルバー(VQE)を実行した場合に、これまでの手法に比べ極めて高い精度で計算できることを確認した。
今回の研究成果は、東京大学大学院工学系研究科の吉岡信行助教、NTTコンピュータ&データサイエンス研究所の徳永裕己特別研究員、鈴木泰成研究員、遠藤傑研究員、産業技術総合研究所の松崎雄一郎主任研究員、大阪大学量子情報・量子生命研究センターの箱嶋秀昭特任助教(常勤)らによるものである。
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