日本の前工程装置のシェアはなぜ低下? 〜欧米韓より劣る要素とは:湯之上隆のナノフォーカス(53)(5/5 ページ)
既出の記事で、日本全体の前工程装置のシェアが2013年頃から急低下していることを指摘した。本稿ではその現象をより詳細に分析し、シェアが低下している根本的な原因を探る。
日本の装置メーカーの生きる道とは
筆者は、昨年2021年12月に寄稿した『半導体製造装置と材料、日本のシェアはなぜ高い? 〜「日本人特有の気質」が生み出す競争力』で日本と欧米の装置開発の違いを論じた。その中で、日本の装置メーカーの競争力を次のように説明した(図12)。
『日本のシェアが高い装置は、液体、流体、粉体を扱う場合が多く、最初の形が決まっておらず、「ふわふわ」している。そのため、最適化するためのパラメータが多くて非常に複雑である。そのような中で、日本人は経験や直感によって最適解を見いだしている。そのプロセスは、マニュアル化できない暗黙知やノウハウが多く、結果として、巧の技や職人芸のようになることもある。
そしてこれらは、現場の継続的な改善・改良がモノを言う世界であり、真面目で忍耐強い日本人が細かなところまで部分最適化する。その結果、ボトムアップによって装置、材料、部品がつくられることになる。このような、日本人的な特徴が高いシェアの源泉になっていると考えられる。』
しかし、各種の装置が極めて複雑化し、高精度化するにつれて、もしかしたら、このような日本の装置開発の手法が曲がり角に来ているのかもしれない。となると、今後の装置開発においては、日本人的な特徴は活かしつつも、欧米の良いところを取り入れていく努力が必要になるのではないか? その欧米の装置開発の方法は、前掲記事で次のように論じた。
『まず、マーケティングによりニーズをつかむ。そして、各種の装置開発の最初にはサイエンスがある。これらニーズとサイエンスのもと、強力なリーダーのトップダウンによって、装置全体をアーキテクトする。その際、モジュール化することが多い。
さらに、その装置開発の各過程でシミュレーションを駆使する。加えて、テクノロジーやノウハウをソフトウェア化して、装置に取り込む。そして、これらを一つに集約し、世界標準の装置に仕上げていく…(後略)』
シェアの低下を止め、再び増大させることは容易なことではない。しかし、日本が前工程装置において今後も高い競争力を維持していくためには、避けて通ることができない問題であると思う。日本の装置メーカーにとっては、ここが正念場である。凋落した日本半導体産業の二の舞にならないことを願いたい。
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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