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早すぎたスマートフォン「IBM Simon」の詳細(1994年)福田昭のストレージ通信(234) フラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表(15)(2/2 ページ)

前回に続き、IBMが開発した世界で初めてのスマートフォン「IBM Simon Personal Communicator」の詳細をご紹介する。

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電話用画面とコンピュータ用画面を切り替えて使う

 「Simon」の仕様を眺めていこう。既に述べたように、移動体通信(携帯電話)の通信方式はアナログ方式、具体的にはAMPS(Advanced Mobile Phone System)である。AMPSは主に北米で使われた方式であり、日本では利用されなかった。

 操作はほぼ全て、タッチパネル液晶ディスプレイによるグラフィカルユーザーインタフェース(GUI)を通じて行う。液晶ディスプレイの初期画面(screen)は2つあり、目的に応じて2つのスクリーンをユーザーが切り替える。1つは携帯電話を使うときの画面(Phone screen)、もう1つはハンドヘルドPC(PDA)を使うときの画面(Mobile Office screen)である。


IBMが開発した世界初のスマートフォン「Simon」の概要。「Simon」の開発チームを率いたFrank Canovaの個人サイト「Simon history」やBellSouthが作製したユーザーマニュアルなどの公表資料をまとめたもの[クリックで拡大]

「Simon」の携帯電話用画面(Phone screen)。画面の右上隅が時刻と日付、上部に状態表示ウィンドウ、中央にダイヤルボタン、下部に緊急ボタン(911)や再架電(リダイヤル)ボタン、ポケットベル(Pager)への移動ボタンなどを配置した。最下端には携帯電話用画面とハンドヘルドPC(PDA)用画面に飛ぶアイコンが見える[クリックで拡大] 出所:BellSouthが作成した「IBM Simon Personal Communicator」の製品カタログ

「Simon」のハンドヘルドPC(PDA)用画面(Mobile Office screen)。画面の右上隅は携帯電話用画面と共通で、時刻と日付を表示する。画面にはアプリケーションのアイコンが並ぶ。カレンダー(予定表機能付き)、住所録(アドレス帳)、世界時計、備忘録(To Doリスト)、ファクシミリ、電卓などのアイコンが見える[クリックで拡大] 出所:BellSouthが作成した「IBM Simon Personal Communicator」の製品カタログ

NECのV30 CPUコアを搭載したシステムLSIが全体を制御

 次は「Simon」の内部構成である。当時のモバイル向け要素技術を俯瞰できる、貴重な事例だ。オペレーティングシステム(OS)はデータライト製のROM-DOS、システムLSIはバデム(Vadem)が設計した「Vadem VG230」、データ通信はモデム(ヘイズ準拠、データ転送速度2400ビット/秒)、メインメモリは1Mバイトの疑似SRAM(PSRAM)と32KバイトのSRAM、ストレージは1MバイトのNORフラッシュメモリである。ワンチップのシステムLSIが全体を制御していること、フラッシュストレージを内蔵していることが興味深い。

 また、PC(PCMCIA)カードスロットを本体の底部に設けることで、外部記憶の増設だけでなく、将来の機能拡張に対応した。先見の明がうかがえる。ただし残念なのは、携帯電話システムがデジタル方式に変更され、アナログ方式のサービスが休止されると「Simon」は無用になってしまうことだ。携帯電話端末のユーザーにとって共通の問題(ハードウェアの買い換えを強制されること)が、既に露呈しつつある。


「Simon」の内部構成。「Simon」の開発チームを率いたFrank Canovaの個人サイトなどの公表資料からまとめた[クリックで拡大]

「Simon」が採用したシステムLSI「Vadem VG230」の概要。バデム(Vadem)が1992年11月に発行したVG230のデータマニュアルからまとめた。なお製造担当企業はデータマニュアルに記述がなく、筆者の推定である[クリックで拡大]

(次回に続く)

⇒「福田昭のストレージ通信」連載バックナンバー一覧

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