米国における「IC基板の空白を埋める」、Calumet:米国初のIC基板サプライヤー目指す(2/2 ページ)
Calumet Electronicsは、米国で最初のIC基板サプライヤーの1つとなり、米国内のエレクトロニクスサプライチェーンにおける重大な空白を埋める支援をするための取り組みを進めている。
米国の防衛、5G、衛星通信などをターゲットに供給へ
Brassard氏は、「2003〜2015年に行われたアジアへのオフショアリングを切り抜けることは、決して容易ではなかった。われわれは、そこから辛うじて生き残った数少ないPCBメーカーの中の1社だ。オフショアリングでは対応できない業務に注力することにより、オフショアリングに対する耐性を高めることを目指した。そして最終的に、防衛や航空宇宙、医療など、国際武器取引規則(ITAR)のような輸出規制に準拠したさまざまな製品の他、IP(Intellectual Property)を持つ製品などに至ったのだ」と述べる。
Brassard氏は、ビデオ通話による米国EE Timesの独占インタビューの中で、試作版の基板を披露したが、その写真掲載については許可しなかった。
同氏は、その試作版がオフィスのテーブル上に置かれているのを指し示しながら、「これを掲げて見せただけで既に限界だ」と語っていた。
Calumetは、カスタム設計基板の供給先として、同社の事業全体の約8%を占める防衛関連企業の他、5G(第5世代移動通信)や衛星通信、ヘルスケアなどの分野に向けたデバイスを手掛ける顧客企業をターゲットとしていきたい考えだ。
Brassard氏は、「Calumetが現在協業している国防総省の関連企業のうち1社は、超小型/超高速インターポーザをはじめとする最先端パッケージングが必要だという」と述べる。
「例えば、機器メーカーが日本メーカーに、『特別なカスタム基板をごく少量だけ作ってほしい』と頼んでも、『申し訳ないがそのようなビジネスには興味がない』と断られるだろう。米国メーカーは他の国に対して、米国のための製品を作るよう強要することはできないということを学んできた」(Brassard氏)
また、同氏によると、日本は現在、基板の注文に対応するのに数年間を要しているという。
「あるメーカーは2019年に、日本メーカーに基板を1000個発注したが、まだ受け取っていない。また日本メーカーは、自社の製品を戦闘機など向けに製品に搭載してほしくはないため、製品の最終用途に対する規制をかけている」(Brassard氏)
Brassard氏は、「Calumetは従業員数約350人で、米国のPCB製造工場1棟当たりの生産能力ランキングではトップ5に入る。事業規模としては小さいが、1年間当たりの回路基板の出荷数量は400万個に達する」と述べている。
Brassard氏によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中、アジアからの人工呼吸器向けPCBの供給がゼロになった際、Calumetは約3カ月で23万5000枚の回路基板を生産して需要を満たしたという。
さらにBrassard氏は「現時点では、米国には非常に複雑で高密度のインターコネクト回路基板を製造できる企業が2〜3社しかない。われわれが知る限り、当社は米国内のマイクロエレクトロニクスのエコシステムにある大きなギャップを埋めるため、有機基板向けの生産能力を開発している米国で唯一の、あるいは少なくともごくわずかなPCBメーカーの1社だ。PCBメーカーは20年にわたり利益率の“干ばつ”に直面してきた。そうした状況が改善しつつある今、また従来型の回路基板の需要が記録的に伸びている中で、多額の研究開発(R&D)コストをかけてより複雑な技術のスケーリングを行うことは、PCBメーカーにとって魅力のあることではなくなっている」と述べた。
CalumetはPCBの生産を増強するため、無電解金めっき(ENIG)仕上げ、過熱プレス、銅メッキといった工程に投資を行ってきた。基板関連の投資には細線リソグラフィ装置や、高密度の電気試験や光学検査に用いるツールなどがある。
また、Brassard氏は「労働力を進化させることは、米国において不可欠になっていく。また、製造職が名誉ある仕事であると認識し始めなくてはならない。この点は、アジアが米国より秀でていることの一つだ」と述べた。
高い歩留まりを追求
Calumetは、高度なPCBの歩留まり率を最大で90%にすることを目指している。
Brassard氏は「一つ一つの回路基板が信じられないほど高価なものになっていく。300米ドルのパネルでのミスと、2万米ドルや20万米ドルのパネルでミスするのとは大きく異なる」と述べた。
高い歩留まりを追求するには、製造の成功のため、より密接なコミュニケーションが必要となる。
Brassard氏は「われわれは世界をまたいで製造業を分断しているが、効果的に相互にコミュニケーションできないためにイノベーションを起こすことができていない。イノベーションは、ひらめきの瞬間に生まれるのではなく、反復を通じて生まれるものだ」と述べた。
米国のエレクトロニクスメーカーは、自分たちが直面するリスクをより意識するようになっている兆しがある。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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