半導体の微細化は2035年まで続く 〜先端ロジックのトランジスタと配線の行方:湯之上隆のナノフォーカス(55)(5/5 ページ)
2022年6月に開催された「VLSIシンポジウム」の講演のうち、最先端ロジック半導体に焦点を当てて解説する。ASMLが2023年から本格的に開発を始める次世代EUV(極端紫外線)露光装置「High NA」が実用化されれば、半導体の微細化は2035年まで続くと見られる。
ムーアの法則は2040年まで続く
High NAが実用化すれば、半導体の微細化は2035年まで続く。その微細加工技術を使って、先端ロジックのトランジスタや配線は進化を続けることを説明した。
そして、今回のVLSIシンポジウムで、ムーアの法則は2040年まで続くことが示された(図13)。その縦軸は、“System Energy Efficiency Performance”になっているが、これは、TOPS/W(Tera Operations Per Second/W、単位エネルギー辺りの計算速度)のことである。もっと簡単に言うと、一定のエネルギーで、どれだけ高速に計算できるかという単位である。
図13:ムーアの法則は2040年まで続く[クリックで拡大] 出所:Michael Lercel (ASML), “Lithography and Patterning for 3nm node and beyond”, SemiconWest 2022.のスライドに筆者加筆(「System Energy Efficiency Performance」の部分。赤い表の陰になり見えなかったため)
当初、プロセッサは微細化すればクロック周波数が増大した。これをDennard Scaling Lawと呼んでいたが、2005年頃に発熱の問題で微細化しても高速にならなくなり、この法則は破綻した。
次に、リソ密度やトランジスタ密度を縦軸に取るようになったが、2020年頃に飽和してしまった。さらに、トランジスタの“Energy Efficiency Performance”、つまり、トランジスタの単位エネルギー辺りの動作速度を縦軸に取ると、これは2015年頃から飽和してしまった。
最後に、“System Energy Efficiency Performance”、つまり、トランジスタでもなく、プロセッサのように1チップでもなく、一つのSystemにおける単位エネルギー辺りの動作速度を縦軸に取ると、2040年まで、指数関数グラフで直線が引けることが分かった。
このSystemとは、複数のチップを縦に積んだ3D ICを意味すると考えられる。図14に示したように、High NAが実現すれば、2次元の微細化が2035年まで続くと同時に、さまざまなチップを積層する3D ICが開発され、これら二つのルートが補完し合ってスケーリングが進むと考えられる。
図14:二つのルートが補完し合ってスケーリングが進む[クリックで拡大] 出所:Mustafa Badaroglu(Qualcomm), “Heterogenous integration technologies:roadmap, look ahead, key challenges” VLSI2022, TW2-5
世界半導体業界は、2021年のコロナ特需から一転して不況に突入しつつある。しかし、半導体の技術はひと時も止まること無く進化し続けるのである。2025年頃のHigh NAの量産適用、2030年頃のCFETの登場、2035年まで続く微細化、2040年まで続くムーアの法則、これらを見届けたいと筆者は思う(といっても2040年まで本コラムを書き続けている自信はない……)。
セミナーのお知らせ
2022年12月9日(金)にサイエンス&テクノロジー主催で、『半導体不況&台湾有事の行方とその対策の羅針盤』と題するセミナーを行います。詳細はこちらをご参照ください。
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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