半導体製造の米国回帰、CHIPS法がエンジニアに与える影響は:短期、長期の影響を考察(2/2 ページ)
米国EE Timesは2人の設計エンジニアに、CHIPS法(正式名称:CHIPS and Science Act)が米国のエンジニアに短期的および長期的に与える影響についての見解を聞いた。同法は、設計エンジニアリングプロセスを2020年以前の状態に戻すのに役立つだけなのだろうか。それとも、半導体の設計と製造プロセスに大幅な変革をもたらすような大きな変化が進行しているのだろうか。答えはその中間にあった。
CHIPS法がもたらす影響のタイムライン
しかし、インフラや製造へのこの種の投資には時間がかかり、こうした変化による効果が得られるのは、数年先になるかもしれない。
Gudino氏は、「CHIPS法は可決されたばかりであり、現在の半導体不足に直接影響することはないため、特に効果を期待してはいない。長期的に見れば、リードタイムが大幅に短縮されると予想されるため、効果を期待できる。それにより、部品を調達しやすくなり、顧客のシステム設計を支援する際に、われわれが選んだ部品のリードタイムが長くなって顧客のスケジュールに間に合わなくなるのではないかと心配することなく、迅速に構築を進められるようになる」と述べている。
CHIPS法は2022年8月9日に署名され、成立した。半導体企業や製造能力、その他の科学技術関連の取り組みに520億米ドルが投入される予定だが、このイニシアチブが軌道に乗るにはかなりの時間がかかる見通しだ。
Wendt氏は、「いくつかの企業は既に、国内のさまざまな場所で製造施設を開設または拡張することを約束しているが、こうした施設の建設には何年もかかる。さらに、他の多くの業界でのサプライチェーンの混乱が、建設プロジェクトに悪影響を及ぼしている。木材や鉄鋼などの原材料の入手が困難なため、建設が遅れるだろう。また、労働力不足の問題もある。そのため、短期的に見ると、エンジニアが日々の設計を行う方法に大きな変化が起こるとは思えない」と述べている。
しかし、長期的には、設計エンジニアやアプリケーションエンジニアに大きな影響を与える可能性がある。
CHIPS法の一環として、米国での事業拡大のために資金援助を受けた企業は、将来的に事業を拡大する方法と場所について、いくつかの制限を受けることになる。特に、CHIPS法を適用した企業は、米国の国家安全保障にとって脅威となる国、つまり中国への進出が制限されることになる。世界の半導体サプライチェーンの多くが中国の製造能力に依存しているため、設計エンジニアが製品に使用する半導体の調達手段が大幅に変更される可能性がある。
利益を得る業界
一方、この法案によって大きな利益を得る業界もある。
Gudino氏は、「自動車業界に大きな影響を与える可能性があるだろう。同業界では、自動車を生産するための半導体確保に苦労している一方で、設計の複雑さが増している。AI(人工知能)搭載の自動運転車や、より多くの電子機器が必要になる電気自動車(EV)など、自動車のスマート化、電動化が進むことで、半導体はさらに不可欠になっている」と述べる。
ほぼ全ての大手自動車メーカーが次世代EVの製造に注力し、自律走行車技術に多額の投資を行っていることから、今後10年以上にわたって活況を呈することが確実な業界を支えるために、米国政府などによる資金流入が今ほど適切な時期はないだろう。
だが、地政学的な観点からの影響や、政治と経済の綱引きの渦中にある設計エンジニアへの影響については、まだ分からない。
Wendt氏は、「半導体産業は中国にとって非常に重要であり、米中関係の地政学的な関係は常に不安定だ。CHIPS法により中国の半導体業界が大きな打撃を受けた場合、中国はどのように反応するだろうか」と述べた。
同氏は一方で、「ただし、全体としては、サプライチェーンの安定性という点で言えば、米国とエンジニアリング業界全体にとって良い動きだといえる」と付け加えた。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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