チップレットvs. 1シリコン化、AMDとIntelの戦略を読み解く:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(68)(3/3 ページ)
残りわずかとなった2022年。後半になって大型プロセッサが続々と発売されている。今回は、AMDの「Ryzen 7000」とIntelの「第13世代 Intel Core」シリーズの解析結果から、両社のチップ戦略の違いを読み解く。
Intel Coreシリーズ、第12世代と第13世代を比較する
図5は、2021年に発売されたIntelの「第12世代Core i9 12900K」と2022年の第13世代Core i9 13900Kについて、パッケージ外観とシリコン上のロゴを比較した様子である。2021年の第12世代もシリコンを共通化してCore i9/i7/i5を作り分けているが、第13世代も同じ構成になっている。第12世代のCPUアーキテクチャは「Alder Lake」なのでシリコン上には「ADI」という表記と、開発された年である「2020」が搭載されている。第13世代ではCPUアーキテクチャが「Raptor Lake」に更新されているので、「RPI」の文字と開発された年の「2021」となっている。Intelは毎年、新プロセッサを開発しているわけだ。AMDがRyzen 7000でCPUソケットをAM4からAM5に変えたので、マザーボードも買い替えねばならないのに対してIntelの場合は第12世代、第13世代ともに同じパッケージを用いているので、マザーボードは前モデルのチップセットである「インテル600」のままでも使えるものとなっている。
図6に、第12世代Core i9 12900Kのシリコンと第13世代Core i9 13900Kのシリコンの比較を示す。Core i9 12900Kは高性能コアが8コア、高効率コアが8コアの計16コアのCPUと、GPU「UHD770」が搭載されているのに対して、Core i9 13900KではCPUアーキテクチャの更新とともに高効率コア数が2倍の16コアに増えている。製造はともに「Intel 7」(10nm)が採用されている。製造プロセスが変わっていないので、高効率コアが8個増えた分がそのまま面積増加につながり、面積は前世代に対して21%ほど大きくなっている。
図7では、2022年9月10月に発売されたAMD Ryzen 9 7950XとIntel第13世代Core i9 13900Kについて、それぞれ前世代のCPUと面積を比較した。
AMDの前世代品であるRyzen 9 5950XはCHIPLET構成で、3シリコンの総面積を1.00とすると、微細化された製造プロセスを用いることで、次世代のRyzen 9 7950Xの総面積は11%減(=0.89)となっている。
Intelの第12世代Core i9 12900Kは、Ryzen 9 5950Xに比べて1シリコン化の効果もあって29%小さいもの(=0.71)であった。しかし同じ製造プロセスのまま、高効率CPUコアを増やしたので面積が増え、最新のRyzen 9 7950Xに対して、Intelの第13世代Core i9 13900Kは面積差が小さくなり、その差は3%(0.89と0.86)になっている。
だが、依然としてIntelのチップの総面積が若干ながら小さいという点は注目しておきたい。先端プロセスを使ったAMDよりもIntelの1シリコンの面積効率が良いと捉えることもできるからだ。シリコンを分けるとシリコン間のIO部(面積効率が悪い:微細化しにくい)が大きな比率になってしまう。一方でミドル仕様のAMD Ryzen 5 7600XはCPUシリコンを1つ削ることができるので、IntelのCore i5 13600Kに比べて24%もシリコン総面積は小さい。
AMDとIntelは、現時点ではそれぞれCHIPLET、1シリコンと作り方が異なっている。今後CHIPLETやHBM(High Bandwidth Memory)などシリコンを組み合わせる“シリコンパズル”が増えていくことは間違いないが、1シリコン化の利点も依然として大きいことは十分に認識しておく必要があるだろう。
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