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EV向けバッテリーの正極材、NMCとLFPのどちらが適切か:課題が多いサプライチェーン(2/2 ページ)
電気自動車(EV)向けのリチウムイオン電池の正極材は、三元系正極材(NMC、ニッケル・マンガン・コバルトが主成分)と、リン酸鉄リチウム(LiFePO4またはLFP)が優勢だ。どちらが適切なのだろうか。
課題が多いバッテリーのサプライチェーン
問題がエネルギー密度とコストだけであれば、EVや車両以外のバッテリーにどういった化学構造を適用するかの決定は、難しいが、変数は限られる。しかし、現実は全く異なる。地政学やサプライチェーン、その他の技術的な課題など多くの要因によって、判断は複雑になっている。
以下に、その例を挙げてみよう。
- LFPバッテリーのサプライチェーンは中国に集中していて、自動車メーカーがEV技術の中国への依存から脱却しようとしているときに、中国のバッテリー供給への依存度を高めることになる
- 自動車メーカーは、コバルトの大部分を生産しているコンゴのコバルト採掘における環境および人権侵害に対応するために、コバルトの使用を制限しようとしている
- ロシアは、バッテリーに使用される高品位ニッケルの大規模供給国である
- LFPは、「充電頻度が高く、物理的に大きなバッテリーを搭載するスペースがある車両(例えば、配送用車両)」に適している
- LFPは製造コストが低く、生産しやすい
- LFPは、バッテリー寿命を低下させることなく100%まで充電できる。対照的に、NMCバッテリーは、寿命を最大化するために80%までの充電に制限する必要がある。つまり、LFPバッテリーを使用したEVの実効航続距離は、NMCバッテリーを使ったEVの実効航続距離に近くなるが、LFPの重量が大きいため、その要素は打ち消される。一方で、固定された機械/設備など、重量がそれほど重要ではない用途においては、LFPは満充電後の動作時間を長くすることができるだろう
- LFPは広い温度範囲で効率的に動作する。特に低温側で、その特長は顕著だ。一方、低温では充電速度が遅くなる
- LFPはNMCの5倍近い充電サイクルを実現し、高温や速い充放電レートでも劣化が少ないので、高性能な走行や急速充電に適している
NMCとLFPの比較は、技術的な要因だけでなく、多くの非エンジニアリング的要素にも依存する上に、それらの要因は流動的なことが多い。さらに、バッテリーの価格は、短期的な価格と、サプライヤー/顧客間での長期契約による価格がぶつかり合って決定されることも一般的だ。
EVの性能におけるバッテリーパックの重要性と不確実性を考えると、恐らく近い将来、自動車メーカーはバッテリーを一切搭載しないEV本体の希望小売価格を提示し、バッテリーの種類をオプションとして提供して、その価格が毎月更新されて変動する、ということになるのではないだろうか。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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