実現に近づく「自己充電式EV」が秘める可能性:充電に関する課題を解決(2/2 ページ)
発電機能を備え、独自に生成した電力で充電する「自己充電式」の電気自動車(EV)は、EVが抱える大きな課題を解決することが期待できる。今回、同技術の持つ可能性や課題について説明する。
自己充電式EVのメリットは
自己充電式EVは、既存のEVよりも数多くのメリットがある。
重要なメリットの一つとして挙げられるのが、頻繁に充電を行う必要がなくなるため、バッテリー切れの不安を解消できるという点だ。自動車に自己充電機能を搭載することで、既存のEVと比べ、走行距離の面で大きなアドバンテージを得られる。
平均的な通勤時間のユーザーであれば、自動車を再充電する必要がほぼないため、燃料費も不要になるだろう。また、研究結果から、長距離ドライブ時や、悪天候時、通勤時間が平均より長い場合であっても、消費者が支払う燃料費は、平均的な自動車の4分の1を下回るということが明らかになった。こうした点が、EVの飛躍的な高効率化を実現し、幅広い普及を推進していく要素となるだろう。
自己充電式EVは、消費者に大きなメリットを提供するだけでなく、送電網のインフラにも有益な影響をもたらすだろう。EVインフラ全体をみると、EVのエネルギー需要が送電網に大きな負担をかけることは周知の事実だ。今後のEV台数の増加に対応できるよう、世界全体の送電網をアップグレードしていくためには、この先20年間で7兆米ドルが必要になると予測されている。
太陽電池を自動車に直接搭載すれば、送電網インフラを追加で構築する必要もなく、負荷を軽減できる。これにより、持続可能性の観点から世界中に利益がもたらされると同時に、インフラ構築の必要性も低減される。
また、現在EVが使用する電気の大半は、非再生可能エネルギー源から生成されている。EV自体は空気汚染を引き起こさないが、EVが使用する電気が汚染を発生させているのだ。一方、太陽電池自動車は、「真のゼロ汚染(TrueZEV:Zero Emission Vehicle)」であると主張できる。
大半の太陽電池自動車は、手頃な価格を実現しながら、EVに対する割引制度も適用されることになる。さらに性能面では、Aptera Motorsによる0〜60マイル毎時(mph)のドラッグレーステストにおいて、太陽電池自動車がAudi「R8」やTesla「Model 3」を上回ったという例もある。
Aptera Motorsが実施した同社の「Aptera Noir」と「Aptera beta」およびTeslaのModel 3、Audi R8によるドラッグレースの様子[クリックで拡大] 出所:Aptera Motors/You Tube
自動充電車実現に向けた課題
自己充電式EVは、少しずつ実現へと近づいているが、設計者やメーカーにとっては、まだ乗り越えなければならない課題が残っている。
その大きな課題の一つとして挙げられるのが、量産の実現だ。現在多くのEVメーカーが製造面で課題を抱えていることからも分かるように、製造は、EV設計の中でも極めて難しい側面だといえる。さらに自己充電式EVともなれば、これまで市場に投入されたことのない完全に新しい技術であるため、製造上の課題はさらに増幅されることになるだろう。
それに加えて重大な課題となるのが、消費者たちにこの技術を受け入れてもらえるようにすることである。Teslaが2008年に同社のEVを初めて市場に投入してから、現在われわれが目にしているようなEVの幅広い普及を実現するまでに、10年以上を要したという事実を受け止めなければならない。
自己充電式EVのような技術は、極めて前衛的で、主流になるにはまだ障壁がある。その正当性や有効性を消費者に納得してもらうことは、この技術にとって大きなハードルであることは間違いない。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- EV市場は2035年に5651万台、全体の半数以上に
富士経済は、HV、PHV、EVの世界市場を調査し、その結果を発表した。中でもEVの市場規模は2035年に5651万台と予測、新車販売台数全体の半数以上を占める見通しとなった。 - EV向けバッテリーの正極材、NMCとLFPのどちらが適切か
電気自動車(EV)向けのリチウムイオン電池の正極材は、三元系正極材(NMC、ニッケル・マンガン・コバルトが主成分)と、リン酸鉄リチウム(LiFePO4またはLFP)が優勢だ。どちらが適切なのだろうか。 - SiCパワーデバイスの主戦場、車載分野の強みを示すST
STMicroelectronicsは、ドイツ・ミュンヘンで開催された欧州最大規模のエレクトロニクス展示会「electronica 2022」(2022年11月15〜18日)において、同社の第3世代SiC MOSFET採用によって30%の小型化を実現したオンボードチャージャーなど、パートナーとの協業によるSiC車載ソリューションを展示した。 - 新BEVブランド「AFEELA」を初披露、ソニー
ソニーとホンダが共同出資するソニー・ホンダモビリティは2023年1月4日(米国時間)、米国ラスベガスにて2023年1月5日から開催される「CES 2023」への出展に先立ち記者説明会を開催し、二次電池式電気自動車(BEV)ブランド「AFEELA」を発表し、そのプロトタイプを披露した。 - クルマの「電動化」を推進、TIのEV事業戦略
日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は、「EV(電気自動車)事業戦略」に関する記者説明会を開催した。EVの本格普及に向けて同社は、安全性を確保しながら、「さらなるコストダウン」や「航続可能距離の最大化」「充電時間の短縮」につながる半導体デバイスを提供していく。 - これからの自動車を支える日本の半導体産業とは
今回は、半導体業界にとって主要なアプリケーションの1つである自動車業界を例にとって、日本の半導体関係者が着眼すべきポイントについて、述べたいと思う。