東京大ら、新たなアクチュエーター材料を発見:磁場を加えると体積が大きく膨張
東京大学と名古屋大学の研究グループは、幅広い温度範囲において磁場を加えると体積が大きく膨張する新材料を発見した。有害な鉛を含まないため、新たなアクチュエーター材料としての応用が注目される。
クロムテルル化物の焼結体、磁場9Tで体積膨張は最大1200ppmに
東京大学と名古屋大学の研究グループは2023年1月、幅広い温度範囲において磁場を加えると体積が大きく膨張する新材料を発見したと発表した。この材料は有害な鉛を含まないため、新たなアクチュエーター材料として、その応用が注目される。
強磁性体は、磁場を加えると磁歪(磁場誘起歪)と呼ばれる現象によって、物体の形状や大きさが変化する。磁歪の大きさは、通常の強磁性体だと1〜10ppmだが、鉄と希土類金属の合金である「Terfenol-D」のように、磁歪が1000ppmを超える物質もあるという。
超磁歪材料と呼ばれるこれらの物質は、磁歪アクチュエーターとして実用化されている。ただ、この材料として幅広く用いられている「チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)」は、鉛を含んでいることが課題となっていた。
研究グループは今回、Cr3Te4とCr2Te3の化学組成を有するクロムテルル化物の焼結体が、大きな体積膨張を伴う磁場誘起歪を示すことを発見した。特にCr3Te4は、−260〜80℃という広い温度領域で大きな体積膨張が現れることを確認。9Tの磁場を加えると体積膨張は最大で1200ppmに達した。
しかも、磁場中の体積膨張はさまざまな特長を示すという。例えば、「磁場中で形状を保ったまま体積が大きく変化する」ことや、「磁場がゼロから少なくとも9Tまでの広い範囲でほとんど磁場に比例する体積膨張を示す」ことである。これらは、クロムテルル化物における磁場誘起歪が、新しい発現機構に基づくものであり、従来の磁歪材料のような「磁場による強磁性磁区の整列によるものでない」ことを示すものだという。
研究グループは、Cr3Te4とCr2Te3の磁場誘起歪や熱膨張、低温X線回折、磁化の実験結果により、「大きな体積膨張を伴う磁場誘起歪は、結晶格子が磁場により異方的に変形する効果と、焼結体試料に存在する空隙の大きさが変化する材料組織の効果が協働することにより生じた可能性が高い」ことを明らかにした。
今回の研究は、東京大学物性研究所の岡本佳比古教授と名古屋大学大学院工学研究科の窪田雄希大学院生、兼松智也大学院生(研究当時)、平井大悟郎准教授、竹中康司教授らによる研究グループが、東京大学物性研究所の矢島健助教と協力して行ったものである。
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