「遠隔ワイヤレス充電」技術を大幅に向上、Wi-Charge:赤外線ベースの独自技術
ワイヤレス充電技術を開発するイスラエルのWi-Chargeは最近、ワイヤレス充電をより多くのガジェットやアプリケーションに提供するために、自社技術を大幅に向上したと発表した。
ワイヤレス充電は、家電、自動車、IoT(モノのインターネット)など数多くのエレクトロニクスアプリケーションで普及している技術である。ワイヤレスOTA(Over The Air)による電力伝送は、低電力デバイスにかなりの恩恵をもたらす。例えば、煩わしい接続ケーブルが不要になる他、交換に対する保守が必要な電池を削減できるようになる。Wi-Chargeは、業界を成長させ、より多くのデバイスやプログラムにワイヤレス充電を提供できるよう自社技術を向上したことについて、重要な発表を行った。
赤外線ベースのワイヤレス充電ソリューション
イスラエルのレホヴォトに拠点をおくWi-Chargeが開発してきたワイヤレス無線技術は、赤外線をベースにしていることから、従来の電磁誘導電力伝送やRF充電とは一線を画している。
Wi-Chargeは、光線を用いて異なる種類のデバイスを充電するトランスミッタとレシーバーで構成されたワイヤレス電力ソリューション「AirCord」を手掛けている。同社によると、他技術では距離の2乗で電力が減少するが、AirCordでは、電力は距離に依存しない。さらに、電力は充電したいデバイスにしか供給されず、不必要な放射が周りの環境に広がることはないという。
電力網(交流または直流電流)に接続されたワイヤレス電力トランスミッタ(左図)は、電気を安全な赤外線ビームに変換する。赤外線ビームはクライアントデバイスにエネルギーを供給する。
一方、ワイヤレス電力レシーバーは、クライアントデバイスへのプラグ接続や組み込みが可能で、赤外線エネルギーを再び電力に変換する。レシーバーは、この電力を内部の充電式バッテリーかスーパーキャパシターに充電する。
また、レシーバーは、バッテリー状態や使用状態、課金情報など、クライアントデバイスのテレメトリーを送り返す。
1台のトランスミッタで、(自動的に識別された)複数のデバイスに電力を供給可能だ。一方、複数のトランスミッタを、スーパーマーケットや生産現場、ショッピングセンター、レストランなどでのより大規模な配備に向けたトポロジーで用いることもできる。
前世代から電力を40%増、設置面積を30%削減
Wi-Chargeは2022年12月15日(米国時間)、ワイヤレス充電をより多くのガジェットやアプリケーションに提供するために、自社技術を大幅に向上したと発表した。同社は、発表した第2世代のレシーバー導入によって、同社が目指す『ワイヤのない世界』の実現という目標に近づいたとしている。第2世代レシーバーは、デバイスメーカーに直接アクセスを提供し、電力、統合のシンプルさ、フォームファクターにおいて、新たな基準を打ち立てる。今回の発表は、ワイヤレス充電分野の重要な進歩といえる。
Wi-Chargeによると、新たな改良によって設置面積を縮小しつつ電力を増加させ、ワイヤレス充電能力と範囲を強化したという。前世代比で設置面積は30%小さくなったうえ、電力は40%増となり、Wi-Chargeはさらに多くのデバイスやユースケースに対応可能になった。
Wi-Chargeによると、レシーバーは下記のように改良された。
- 完全な充電ソリューション:第2世代レシーバーにはバッテリー充電器、制御インタフェース、カスタマイズ可能な出力電圧が搭載された。加えてレシーバーから、顧客への警告やトランスミッタへのテレメトリーを送れるようになった。送られた警告やテレメトリーはWi-Chargeのクラウドに送信することも可能だ。
- 電力の向上:Wi-Chargeのトランスミッタは、1つのトランスミッタでより多くのデバイスに電力供給が可能になった。また、機能実行のためさらに多くの電力が必要なデバイスや全体的に電力を大量に消費する機能を持つデバイスへの電力供給も可能になった。
- クライアントデバイスのBOM(Bill of Material)の総額を削減:これは、エレクトロニクス統合の簡素化、美観の向上、(より少ないR&D資金を使った)オリジナルシステムへの機械的統合の簡素化の結果だ。
Wi-Chargeの共同設立者でCBO(最高事業責任者)を務めるOri Mor氏は、米国EE Timesによるインタビューの中で「第1世代のレシーバーでは、これらの新たな機能拡張は存在せず、全て顧客側で対応する必要があった。第2世代では、これらの機能が全て単一パッケージに含まれ、顧客に非常に高く評価されている。統合がかなり容易になっただけでなく、低コストも実現したからだ」と語った。
第2世代レシーバーの作動パラメーター(例えば、バッテリーを再充電するために用いられる電圧レベルなど)は、ソフトウェアで構成可能になった。つまり、顧客はソリューションの設計を簡素化でき、時間とコストを節約できる。前世代では、Wi-Chargeはバッテリーパックを設計し、それをバッテリー充電器や電圧コンバーター、バッテリー内部にどれくらいの電気が残っているかI2Cを介して通信するプロセッサを含む顧客のPCBA(プリント基板アセンブリ)と統合しなければならなかった。
Wi-ChargeのR&D担当バイスプレジデントであるEli Zlatkin氏は「第2世代技術によって、これらの全ての機能が既にレシーバー内部に備わった。顧客に必要なのは、バッテリーへのワイヤ接続と、関連するパラメーター設定だけだ。配線と機械的なパッケージングを行うだけでよいのだ」と述べた。
新たなレシーバーでは、電力、サイズ、コストの面で大幅な改善が達成された。Zlatkin氏は、「第2世代レシーバーがトランスミッタから受け取る電力は前世代と同じだが、効率が大幅に向上している。以前は、低出力デバイスは供給電力は60mWだったが、現在は100mWになった。高出力デバイスは従来の250mWから330mWとなったが、これらは全て同じ送信電力レベルで達成された」と述べている。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ワイヤレス給電、2031年に約1兆5500億円市場へ
矢野経済研究所は、ワイヤレス給電の世界市場(事業者売上高ベース)を調査、2031年までの用途別市場規模を予測した。市場規模は2021年の4301億円に対し、2031年は1兆5496億円に拡大する見通しである。 - ワイヤレス電力伝送の基本原理(後編)
後編となる今回は、誘導型(非放射型)ワイヤレス電力伝送(WPT)の簡略史と、放射型WPT技術の種類を解説する。 - 電磁波で電力を伝送するという夢の始まり(前編)
今回からはワイヤレス電力伝送の歴史を振り返る。 - ワイヤレス電力伝送の将来展望
今回は、本シリーズの完結回として「8. 将来への展望」の講演部分を紹介する。 - 大電力対応ワイヤレス充電用シート型コイルを開発
大日本印刷(DNP)は、電動車や無人搬送車(AGV)向けに、11.1kWクラスの大電力伝送に対応しつつ、薄型軽量でコスト低減を可能にした「ワイヤレス充電用シート型コイル」を開発した。 - TI、バッテリーセル/パックモニターICを発表
テキサス・インスツルメンツ(TI)は、車載用バッテリー管理システム(BMS)に向けたバッテリーセルモニターIC「BQ79718-Q1」および、バッテリーパックモニターIC「BQ79731-Q1」を発表した。