TI、バッテリーセル/パックモニターICを発表:EVの航続可能距離を最大限に延長
テキサス・インスツルメンツ(TI)は、車載用バッテリー管理システム(BMS)に向けたバッテリーセルモニターIC「BQ79718-Q1」および、バッテリーパックモニターIC「BQ79731-Q1」を発表した。
バッテリーの電圧、電流、温度を高い精度で測定
テキサス・インスツルメンツ(TI)は2023年1月17日、車載用バッテリー管理システム(BMS)に向けたバッテリーセルモニターIC「BQ79718-Q1」および、バッテリーパックモニターIC「BQ79731-Q1」を発表した。バッテリーの電圧や電流、温度を高い精度で測定できるため、EVの航続可能距離を最大限に延長することができるという。
TIは、EVの本格普及に向けて、より安全で高信頼の運転環境を実現しつつ、「航続可能な距離の最大化」や「充電時間の短縮」「さらなるコストダウン」につながる車載用半導体デバイスの開発および、安定した製品供給に力を入れる。
なかでも、バッテリーセルの電圧やバッテリーパックの電圧/電流を監視するBMSの進化は、バッテリー性能を最大限に高め、航続可能な距離を延ばすための重要な技術の一つと位置付ける。温度がわずかに変化しただけでもEVの航続可能な距離は大きく変わる。例えば、寒冷な気象条件下では、航続可能な距離が最大40%も短くなることがあるという。このため、バッテリーの充電状態をより正確に推定することが求められている。
新製品は、電圧と電流の測定精度を大幅に向上させることで、航続可能な距離をより正確に見積もることを可能にする。BQ79718-Q1は、バッテリーセル電圧の測定精度が1mVとなり、従来製品(3.5mV)に比べ3倍改善したという。もちろん、自動車向け機能安全規格「ISO26262 ASIL-D」にも準拠している。
TIのバッテリーマネジメントソリューション事業部でゼネラルマネジャーを務めるSamuel Wong氏は、「航続可能な距離が300マイル(約480km)の場合、電圧の測定精度が10mVだと、NMC(三元系)パックでは6マイル(9.6km)のエラーが出る。これが1mV精度のセルモニターICを用いると、0.5マイル(0.8km)のエラーで済む。高い測定精度を実現したことで5.5マイルも改善できる。同様にLFP(リン酸鉄系)パックでは、63マイル(101km)の改善となり、航続可能な距離は20%も延長できる」と話す。
また、BQ79731-Q1はバッテリーパック電流を、0.05%の精度で測定可能とした。しかも、バッテリーパックの電流と電圧の測定を同期して行うことができるという。同期の遅延時間は通常で64マイクロ秒、最大で128マイクロ秒と小さい。これにより、バッテリーセルのコア温度とバッテリーの経年変化、バッテリーの充電状態を詳細に把握することが可能だという。
さらに、バッテリージャンクションボックス(BJB)内のパックモニターICで、全ての測定データを処理する。このため、バッテリーマネジメントユニット(BMU)に対しては、処理後の結果のみをツイストペア線で送信するだけで済む。従来はBJBで測定したアナログデータを約10本のケーブルを介してBMUに送信し、BMU内のマイコンで処理していたという。こうしたシステム設計の煩わしさも解消することができる。
新製品はサンプル出荷中である。量産は2023年後半を予定している。BQ79718-Q1は、外形寸法が10×10mmの64端子放熱強化の薄型クアッドフラットパッケージ(HTQFP)で供給する。1000個購入時の単価は8.39米ドル。同評価モジュール「BQ79718EVM-049」もTIのウェブサイトより399米ドルで購入できる。
同様にBQ79731-Q1は、外形寸法7×7mmの48端子放熱強化の薄型クアッドフラットパッケージ(HTQFP)で供給する。1000個購入時の単価は8.39米ドル。同評価モジュール「BQ79731Q1EVM-060」は、TIのウェブサイトより199米ドルで購入できる。
この他、BMS向け半導体として同社は、SPI/UART通信ブリッジデバイス「BQ79600-Q1」やワイヤレスマイコン「CC2662R-Q1」、絶縁型スイッチドライバー「TPSI3050-Q1」、絶縁型スイッチデバイス「TPSI2140-Q1」などを用意している。
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