300℃以上で動作する抵抗変化型メモリ素子を開発:アモルファス酸化ガリウムを利用
大阪大学の研究グループは、抵抗変化型メモリ素子の「メモリスタ」を、300℃以上の高温環境で動作させることに成功した。航空宇宙や耐放射線といった極限環境での利用が可能となる。
アモルファス構造により、3次元集積回路にも対応
大阪大学の研究グループは2023年1月、抵抗変化型メモリ素子の「メモリスタ」を、300℃以上の高温環境で動作させることに成功したと発表した。アモルファス酸化ガリウム(a-GaOx)を用いることで実現した。航空宇宙や耐放射線といった極限環境での利用が可能となる。
一般的なプロセッサや半導体メモリは、数多くのシリコントランジスタで構成されている。微細加工技術の進展などにより、ICの高集積化や高性能化が進む。ただ、シリコン半導体の動作温度は、200℃以下に限られているという。このため、より高温で動作する素子の開発要求も高まっている。
研究グループは、フィラメントを形成させずに酸素空孔イオンの分布を制御することで抵抗変化を引き起こす「非フィラメント型」の材料に注目した。今回の研究では、パルスレーザー蒸着法によってワイドギャップ半導体である「酸化ガリウム」を厚み数十ナノメートルの還元性アモルファス薄膜に生成し、白金上部電極と酸化インジウムスズ下部電極で挟んだ「キャパシター型メモリスタ」を作製した。
作製した還元性a-GaOxメモリスタの電流−電圧特性を計測したところ、上部電極に印加した正/負電圧に応じて出力電流が変化する「逆8の字形ヒステリシス特性」を示したことから、メモリ機能を有することが分かった。
これは、電子を供給して正に帯電した酸素空孔イオンが、負電圧を印加したことにより上部電極側へ引き寄せられて「低抵抗状態」となり、正電圧印加で同電極側から引き離されたときに「高抵抗状態」となる特性だという。しかも、滑らかに状態遷移しており、メモリスタが「非フィラメント型」であることを示している。非フィラメント型の特性は、600K(327℃)という高温下でも現れることを確認した。
研究グループによれば、開発したa-GaOxメモリスタは、高温下でも安定した特性を示すとともに、今回用いた酸化ガリウムはアモルファス構造であるため、3次元集積回路化にも適しているという。
今回の研究成果は、大阪大学大学院基礎工学研究科の佐藤健人氏(当時博士前期課程)や林侑介助教、正岡直樹氏(博士前期課程)、藤平哲也准教授、酒井朗教授らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 高精度な量子センシングをハードを改善せずに実現
NTTと産業技術総合研究所(以下、産総研)、大阪大学量子情報・量子生命研究センター(以下、阪大)は2022年12月16日、ハードウェアを改善せずに、より高精度な量子センシングを実現できるアルゴリズムを考案したと発表した。 - 量子ドット2次元配列、微小磁石で電子スピン制御
九州大学と大阪大学の研究グループは、量子ドットを2行2列に配列したアレイで、電子スピンの制御に用いる微小磁石について、その形状を最適化する設計手法を開発した。大規模な半導体量子コンピュータの開発に弾みをつける。 - PSB技術を用いたチップレット集積技術を開発
東京工業大学とアオイ電子らによる共同研究チームは、広帯域のチップ間接続性能と集積規模の拡大を可能にするチップレット集積技術「Pillar-Suspended Bridge(PSB)」を開発したと発表した。 - 東京大学ら、高品質の磁性vdWヘテロ構造を作製
東京大学らによる研究グループは、二次元金属のNbSe2薄膜と、二次元強磁性体のV5Se8薄膜を重ねた「磁性ファンデルワールス(vdW)ヘテロ構造」を作製することに成功した。ヘテロ構造の界面には「フェロバレー強磁性」という新たな状態が形成されていることも確認した。 - 名古屋大ら、高品質のSiGe半導体を印刷で実現
名古屋大学らによる研究グループは、特殊なペーストをシリコン(Si)単結晶基板に印刷し、非真空下で数分程度の熱処理を行うことにより、高品質なシリコンゲルマニウム(SiGe)半導体を実現することに成功した。 - 無機化合物で2つの基本構造を共存、制御も可能に
東京工業大学は、京都大学や大阪大学、東北大学の研究グループと共同で、無機化合物の基本的な結晶構造である「岩塩型構造」と「蛍石型構造」を共存させ、制御できることを発見した。環境浄化や人工光合成の実現に向けた、新しい機能性材料の開発につながる可能性が高い。