名古屋大ら、高品質のSiGe半導体を印刷で実現:多接合太陽電池のコストを大幅削減
名古屋大学らによる研究グループは、特殊なペーストをシリコン(Si)単結晶基板に印刷し、非真空下で数分程度の熱処理を行うことにより、高品質なシリコンゲルマニウム(SiGe)半導体を実現することに成功した。
Al-Ge合金ペーストをSi基板上に印刷、900℃で5分間熱処理
名古屋大学らによる研究グループは2022年9月、特殊なペーストをシリコン(Si)単結晶基板に印刷し、非真空下で数分程度の熱処理を行うことにより、高品質なシリコンゲルマニウム(SiGe)半導体を実現することに成功したと発表した。開発した技術を用いることで、効率が極めて高い多接合太陽電池の製造コストを10分の1以下にできるという。
宇宙用として実用化されている多接合太陽電池は、ゲルマニウム(Ge)基板の上に複数の化合物半導体薄膜太陽電池を重ねることで、30%を超える高いエネルギー変換効率を実現している。ただ、Ge基板は高価であり、一般向けの多接合太陽電池を開発するには、安価な材料に代替する必要があった。
研究グループは今回、Si基板上にSiGe膜を安価な製造プロセスで作製する技術開発に取り組んだ。それは、東洋アルミニウムが独自技術を用いて製造するアルミニウム(Al)とGeの合金ペーストをSi基板上に印刷し、数分間の熱処理を行うなど、比較的簡便な方法である。
具体的には、900℃で5分間の熱処理を行うと、Si基板の表面と印刷したAl-Ge合金ペーストが溶け、Al-Ge-Siを成分とする溶液が形成される。温度が下がる工程で過飽和状態になると、Si基板上にSiGe膜がエピタキシャル成長をする。その後、表面のAl残留ペーストを化学処理して除去すれば、Si基板上に成長したSiGe半導体膜が得られるという。熱処理後には、Si基板上に厚み10μmを超える膜が連続的に形成されていることを確認した。
X線回折装置を用い、試料の逆格子空間マップを測定した。この結果、結晶の格子定数が連続的に変化していることが予測されるという。また、これとは別の測定結果を組み合わせることで、Si基板から表面に向かって、少しずつGeの量が増えていることが分かった。最表面でのGe組成は約90%で、化合物半導体のエピタキシャル成長用基板として、Geと同等の機能を持つと予測した。
研究グループは今後、大面積化や化合物半導体の薄膜成長などに取り組む予定である。
今回の研究は、名古屋大学大学院工学研究科の福田啓介博士前期課程学生(研究当時)、宮本聡特任講師、宇佐美徳隆教授と、大阪大学大学院工学研究科・東洋アルミニウム半導体共同研究講座のダムリン マルワン特任教授(東洋アルミニウムシニアスペシャリスト)、東北大学金属材料研究所の藤原航三教授、奈良先端科学技術大学院大学の浦岡行治教授らが共同で行った。
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