GaAs系半導体ナノワイヤをウエハー全面に集積:2インチウエハーに約7億本
北海道大学と愛媛大学、東京大学の研究グループは、光機能性に優れたガリウムヒ素(GaAs)系半導体ナノワイヤを、シリコンウエハー全面に合成することに成功した。直径5cmのシリコンウエハー上に約7億本のナノワイヤを集積できるという。
分子線エピタキシー法によるガリウム自己触媒効果を用いて結晶成長
北海道大学と愛媛大学、東京大学の研究グループは2023年2月、光機能性に優れたガリウムヒ素(GaAs)系半導体ナノワイヤを、シリコンウエハー全面に合成することに成功したと発表した。分子線エピタキシー法を用いて、直径5cm(2インチ)のシリコンウエハー上に約7億本のナノワイヤを集積することができるという。
ナノワイヤは線状のナノ構造体で、レーザーや太陽電池、トランジスタなどに応用するための研究が進められている。特に、GaAsなどのIII-V族化合物半導体は、優れた光電変換機能や電子移動度を備えている。そこで研究グループは、シリコンウエハー全面に高品質のGaAs系半導体ナノワイヤを簡便に合成する手法の開発に取り組んできた。
研究グループは今回、分子線エピタキシー法によるガリウム自己触媒効果を用いた結晶成長により、市販の2インチシリコン(111)ウエハー全面に、均一で良好な発光特性を示すガリウムヒ素系半導体ナノワイヤを合成することに成功した。ナノワイヤの形成に当たっては、特定の前処理などが不要となり、分子線エピタキシー装置による単一のプロセスで実現したという。
合成したナノワイヤは、長さが約6μm、直径は約250nm、密度は1cm2当たり約5000万本である。しかも、ナノワイヤは、GaAs内部のコアがアルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs)で覆われた「GaAs/AlGaAsコア−シェルナノワイヤ」構造となっており、将来的にはデバイス構造を作製することも可能だという。さらに、ワイヤの最表面は空気に触れて自然酸化し、保護層として機能するよう構造設計した。
今回の研究成果は、北海道大学量子集積エレクトロニクス研究センターの石川史太郎教授や北海道大学大学院情報科学研究院の村山明宏教授、樋浦諭志准教授と、愛媛大学大学院理工学研究科および、東京大学大学院工学系研究科の柳田剛教授、長島一樹准教授らによるものである。
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