検索
インタビュー

自動車業界の変化から半導体政策まで、NXP和島社長に聞く日本法人社長に就任して2年以上(2/2 ページ)

2020年10月に、NXP Semiconductorsの日本法人であるNXPジャパンの代表取締役社長に就任した和島正幸氏。自動車分野などでの半導体不足や、それに端を発した半導体政策/投資の加速など、半導体業界に大きな影響を与える出来事を同氏はどう分析しているのだろうか。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

自動車業界では、半導体エコシステムの理解が進む

――NXPジャパンの社長に就任されてから、2年以上が経過しました。コロナ禍による半導体不足で、半導体がかつてないほど注目されるようになりましたが、半導体メーカーとして、何か変化を感じていらっしゃいますか。例えば、半導体不足で最も苦しんだ業界の一つである、自動車分野ではいかがでしょうか。

和島氏 自動車分野では、半導体の供給難がいまだに一部で続いているが、その理由を理解してくれようとする顧客が増えた。材料から前工程、後工程まで含めた半導体エコシステムへの理解は確実に進んでいる。例えば、半導体の製造工程は、マスクの枚数も増え、ウエハーも大口径化していることから非常に長くなっていること。多くの工場の生産ラインはフル稼働で混雑しているということ。そうした半導体製造の全体像を、顧客がより理解してくれようとしている。特に自動車向けの半導体プロセスは、スマートフォン向けとは異なり、レガシーのプロセスを使う。それ故、工場では既存のラインをいかに効率よく使用するかがキーになる。そうした事情も、分かってくれるようになってきた。

――自動車メーカーには半導体の役割をよく分かっていない上層部も多い、という声もちらほら聞いていました。それががらりと変わるチャンスになるのでしょうか。

和島氏 これからではないかと思う。複雑な半導体エコシステムの中で、部品調達のリスクも考慮したヘッジのかけ方について議論が進んでいくのではないか。自動車のE/Eアーキテクチャが進化していることもあり、われわれのような半導体メーカーが、自動車メーカーと直接ディスカッションする機会が実際、増えている。これは特に、海外の自動車メーカーの方が積極的だと感じる。

EVだけが正解ではない

――やはり海外の方が動きが速いのですね。日本ももっと積極的になる必要があると感じました。

和島氏 EV(電気自動車)一つ取っても、やはり海外のスピードは違う。カーボンニュートラルという世界的なトレンドの中で、日本は後れを取っている場合ではない。

 一方で、EVだけが正解とは限らない。EVのボトルネックの一つはリチウムイオンバッテリーだ。バッテリーそのものの物量確保が今後も安定的であるという保証はなく、そもそもリチウムはレアメタルで、こうした材料のサプライチェーンには地政学的なリスクが絡むことも多くなっている。EVの普及拡大でリチウムイオンバッテリーの市場が急成長しても、製造することすら難しくなる時が来るかもしれない。例えば、日本では、内燃機関の自動車向けの燃料として、ガソリンよりもクリーンかつ脱炭素燃料と見なせる合成燃料(二酸化炭素と水素を合成して生成される燃料)の研究開発が行われている。EVでも課題がある中で、こうした既存の自動車にも使える、よりクリーンな燃料を開発していくのは重要だ。このような技術力をもっとアピールして、さまざまなアプローチを取るのが有効な手段ではないか。

時には“エクストリーム”な経営判断も必要

――現在、世界中の政府が半導体産業への投資が加速しています。日本も例外ではなく、経済産業省が半導体政策を打ち出しています。こうした状況を、どう見ていますか。

和島氏 率直に言えば、やや中途半端な感は否めないと感じる。この数十年で、半導体に思い切り舵を切って投資をした韓国などと大きな差がついてしまった。欧米に比べて半導体への投資がどのくらい異なるのか、よく考えてみてほしいと思う。

 予算が限られるならば、材料や装置など、日本の競争力が高いところに注力して投資すべきではないか。半導体のエコシステムは、自動車のそれに匹敵するほど裾野が広く、動く金額も膨大だ。だからこそ、その半導体エコシステムにおいてどこか一つの領域だけでもチャンピオンを持っているというのは非常に重要になる。広く浅く支援するよりも、半導体エコシステムのキーポイントをしっかり押さえて、そこに集中的に資源を投下する方が有効なのではないか。

――日本はなかなか思い切った決断や戦略ができない、という声も聞かれますね。

和島氏 私は日本法人のトップに就任してから2年以上がたつが、内部のオペレーションでは、さまざまな判断をエクストリームに振る。そうすると結果も早く出るので、戦略や計画の変更も早い段階で判断できる。オーバーシュート、アンダーシュートを恐れず、PDCAのサイクルをより速く回し、結果を出すのも軌道修正をするのも素早くできるようにしている。日本法人の組織改革も進めている。どのように組織を変えるべきかを従業員から公募し、議論しながら柔軟に変えていけるプロセスを導入している。

予測が難しい2023年、在庫モニタリングを丁寧に

――2023年の市場はどのようになると予測していますか。

和島氏 半導体の売上高でいえば、2021年、2022年と2桁成長を実現してきた中、2023年に同様の成長を期待するのは難しいだろう。特に車載分野の動きは予測が難しい。現在、自動車向け部品では、供給難のモノと、安定して供給できるモノとがまだら模様になっている。供給難が解消され始めると、(自動車の生産が一気に進み)シリコンサイクルの谷に向かって突き進む可能性はあるが、そのタイミングがいつになるのか予測することは難しい。NXPとしてはチャネル在庫のモニタリングを丁寧に行い、在庫を適正に保てるようコントロールしていく。その他、顧客に購入を確約してもらうといった取り組みも行っている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る