空飛ぶ基地局「HAPS」、2027年の実用化へ:米国での実証実験に成功
ソフトバンク主催の最先端技術を体感できる技術展「ギジュツノチカラ ADVANCED TECH SHOW 2023」では、空飛ぶ基地局「HAPS」の実現に向けた研究が展示された。米国での実証実験には成功していて、2027年の実用化を目指している。
ソフトバンクは2023年3月22〜23日、最先端技術を体感できる技術展「ギジュツノチカラ ADVANCED TECH SHOW 2023」を都内で開催した。会場では、地上約20kmの成層圏に無人航空機を飛ばして基地局にする「HAPS(High Altitude Platform Station)」の実現に向けた研究の最新動向について展示を行っていた。
同社は、東日本大震災をきっかけに、地震や津波などにも影響されない通信を目指し、2017年12月にHAPS事業を展開するためにHAPSモバイルを設立。2019年4月には無人航空機「HAWK30(後にSungliderに改称)」の開発も発表していた。
展示では、2020年9月に成功した、米国ニューメキシコ州での成層圏飛行およびLTE通信試験や、2022年に成功した、HAPSが上空で旋回移動した際のハンドオーバー(基地局セル間の入れ替わり)を防ぐ「フットプリント固定技術」の実証について紹介した。担当者は、「HAPSの飛行や通信のための基礎技術は固まってきている。一方で、複数機体を飛ばした場合のリスク検証や、成層圏飛行に関する法律および国際的な取り決めには時間がかかるだろう。環境含めて整備を進め、2027年までに国内での実用化を目指している」と述べた。
HAPSに使用される機体Sungliderは、全長約80mの無尾翼固定翼機で、重量は「小型航空機ほど」だという。翼にはソーラーパネルを搭載し、バッテリーには大容量リチウムイオン電池を使用している。離陸後は、6〜7時間で成層圏に到着し、その後は日中に溜めた太陽光エネルギーを使って約6カ月間飛行する。1台で直径200kmの通信が可能で、日本全国を網羅するためには30〜40台の稼働が必要だという。
同社は、成層圏での実証実験に加え、独自のフライトシミュレーターを作成し、コストを最小限に抑えながら研究開発をしている。また、「HAPSアライアンス」を創設し、現在、HAPSの市場形成の推進および活性化に取り組む53社の企業と連携している。
安定通信に不可欠な「RF回転コネクタ」を開発
ソフトバンクは、HAPSによる安定した通信環境を提供するため、同社の持つ無線技術と、スリップリングを設計/製造している東京通信機材の回転コネクターを組み合わせることで、高出力かつ高周波信号を多数伝えられる「RF回転コネクタ」を開発した。
HAPSが、同一座標付近にとどまるために旋回飛行すると、HAPSに搭載された基地局アンテナも一緒に回転するため、地上に照射された通信エリアも同時に回転してしまう。これにより、地上のユーザーは、自身が一切移動していなくてもハンドオーバーが頻発し、通信品質が悪化するほか、HAPSの消費電力増加にもつながるという課題があった。また、高周波は、通信距離に差があると信号の波にズレが発生し、自ら打ち消し合って減衰してしまうため、従来の回転コネクターでは対応できなかったという。
同社は、同技術がHAPSのみならず、移動基地局車やドローンにも活用できる可能性があるとして、今後も研究を進める方針だ。
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