岡山大学、単層TMDCナノリボンの合成に成功:ユニークな合成手法を提案
岡山大学は、独自の化学気相成長法を用い、半導体材料の「遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)」について、「ナノリボン」と呼ばれる一次元構造を合成することに成功した。ナノスケール光電子デバイスなどへの応用が期待される。
次世代のナノスケール光電子デバイスなどに応用
岡山大学は2023年5月、独自の化学気相成長法を用い、半導体材料の「遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)」について、「ナノリボン」と呼ばれる一次元構造を合成することに成功したと発表した。ナノスケール光電子デバイスなどへの応用が期待される。
TMDCは、半導体特性を備えた原子層物質で、原子3個分の厚みである。特に、単層のTMDCは機械的柔軟性や電気特性、光学特性に優れている。ただ、TMDCナノリボンを実現するための合成手法が、これまでは確立されていなかったという。
研究グループは、TMDCの一種であるWS2ナノリボンを合成することにした。そこで今回は、酸化タングステン(WxOy)のナノワイヤをテンプレートにしてWS2を成長させ、WS2ナノリボンを合成するという新たな手法を提案した。
具体的には、原料となる金属塩(Na2WO4)を成長基板に塗布した。この原料を高温で粒子化し、わずかな有機硫黄の蒸気と反応をさせることでWxOyナノワイヤを成長させた。さらに、WxOyナノワイヤと硫黄の反応を連続的に行うことで、WxOy上にWS2ナノリボンを成長させることに成功した。光学顕微鏡を用い、これが一次元構造の物質であることを確認した。
WxOyナノワイヤ上のWS2ナノリボンについて、その構造や光学特性を調べた。この結果、単層に由来する発光(フォトルミネッセンス:PL)特性が得られた。また、多くのWS2ナノリボンについて、そのPLを測定したところ、ほぼ全てのWS2ナノリボンは単層であることが分かった。
上段はWxOyナノワイヤの成長を介したWS2ナノリボンの成長プロセス。中段は左が光学顕微鏡像、中央が発光マップ、中段右と下段右が酸化タングステン上に成長したWS2ナノリボン断面の電子顕微鏡像。下段左は酸化タングステン上に成長したWS2ナノリボンの模式図 出所:岡山大学
さらに、電子顕微鏡を用いてWxOyナノワイヤ/WS2ナノリボンの断面を観測した。これにより、WxOyナノワイヤ上には、単層WS2ナノリボンが成長していることを確認した。
選択的に単層のみが得られる理由について、「自己制限成長」という成長モデルを検証した。これは、固相−気相界面で硫黄とタングステンが反応して、その界面に単層WS2が成長すると、それ以上の化学反応を止めるように働くものである。研究グループはこれを検証するため、密度汎関数理論(DFT)計算を行った。この結果、合成中の熱エネルギーでは、硫黄原子がエネルギー障壁を超えることはほとんどないことが分かった。
直線偏光を用いたラマン分光およびPL分光によって、光学特性も調べた。そうしたところ、WS2ナノリボンでは偏光特性が現れた。これは、WS2ナノリボンの一次元性を示すものだという。WS2ナノリボン単体の特性を調べるにあたっては、WS2ナノリボンをナノワイヤから機械剥離し、新たな基板に転写した。
単離したWS2ナノリボンの厚みは1nm以下である。WxOyナノワイヤ上で受けていた格子ひずみやドーピングが軽減されていることも判明した。単離した単層WS2ナノリボンの結晶構造を電子顕微鏡で観察すると、ジグザグエッジであることが分かった。
研究グループは、単層WS2ナノリボンを用いて電界効果トランジスタ(FET)を作製し、電子伝導型(n型)のFETとして動作させることに成功した。
今回は、岡山大学大学院自然科学研究科の岸淵美咲氏(研究当時は博士前期課程2年、現在はローム)と学術研究院環境生命自然科学学域の鈴木弘朗助教、鶴田健二教授、林靖彦教授、三澤賢明氏(研究当時は岡山大学学術研究院自然科学学域助教、現在は福岡工業大学助教)の研究グループと、東京都立大学大学院理学研究科物理学専攻の宮田耕充准教授、産業技術総合研究所の劉崢上級主任研究員らによる共同研究の成果である。
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