TDK、独自開発のAIデータ分析ソフトでMIを推進:解析時間が60分から数秒に
TDKは、独自開発したAIデータ分析ソフトウェア「Aim」の本格運用を開始した。Aimは、マテリアルズインフォマティクスの推進を目的に開発された。同社はAimの活用により、迅速かつ良質な材料の提供を目指すとしている。【訂正あり】
TDKは2023年5月23日、マテリアルズインフォマティクス(MI)の推進を目的として独自のAI(人工知能)データ分析ソフトウェア「Aim」を開発し、2023年4月から社内運用を開始したと発表した。
Aimは、TDK社内の各部署で蓄積された材料開発に関するデータ解析の知見や技術を共有し、社員が活用できるようにしたAIデータ分析プラットフォームだ。TDK社員に向けてカスタマイズされていて、TDK社員であれば、国内外/職種を問わずにイントラネットからアクセスし、クラウド上で利用できる。同社はAimの活用により、迅速かつ良質な材料の提供を目指すとしている。
Aimを活用することによる顧客のメリットについて、同社 技術・知財本部 材料研究センター 第5材料研究室 室長の梅田裕二氏は、「Aimは、早く良いものを出せることが一番のメリットだ。TDK側での新材料の開発/提案だけでなく、顧客側から新材料に関する相談があった際に、検討/開発を早く行えるようになる」と説明した。
同社は、2013年からMIの取り組みを開始、Aimの開発は2018年から着手している。
分析時間を60分から数秒に短縮
Aimは、セキュリティ面や情報漏洩(ろうえい)の観点からTDKが自社で構築したものだ。TDKの技術・知財本部 応用製品開発センター ソフトウェアソリューション開発部 第3開発室 室長の山田貴則氏は「Aimは、TDKの技術が多分に含まれているため情報保護などの観点から内製した。また、技術者/非技術者を問わず、いろいろな分野に携わる人が使えるUX(ユーザーエクスペリエンス)にするためには、自社用にカスタマイズする必要があった」と述べた。
材料の粒子解析の分野ではAimを既に活用していて、粒子間の境界をAIが予測/色分けすることで、手作業で分析した場合には材料画像1枚当たり30〜60分かかっていた作業を数秒に短縮することに成功している。
MIの実績としては、2018年ごろ、新規磁性材料の開発において、可変磁束磁石に求められる残留磁束密度(Br)と高い角形性(Hk/HcJ)を持った高性能材料を発見している。この発見は「人間の従来知見からでは得られなかった発見だった」(同社)という。また、2021年ごろには、高周波材料の損失予測において、約2000種の材料の損失予測にMIを活用し、従来方法では約2.5年かかる予測を約30日間に短縮したという。
【訂正:2023年5月26日16時25分 当初、「予測を約30時間に短縮したという。」と記載しておりましたが、「30日間」の誤りのため、お詫びして修正致します。】
梅田氏は、「Aimの開発により、良い材料を早く開発できる可能性が高まった。しかし、残念ながら現状では学習データが十分ではなく、Aimでは解決できない場合も少なくない。今後は、学習データを拡充し、対応できる分野を広げていく。また、Aimの活用には、MIに関する一定の知識が必要なため、現在は知識のあるチームがサポートしながら活用している。しかし、MIの知識がある人材は十分ではないため、今後は採用も強化していく方針だ」とコメントした。
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