半導体/電子部品業界で進む「MES」の採用:VishayやTDK、imecなど
製造工程の効率化を図るべく、MES(製造実行システム)の採用が進んでいる。MESを手掛けるCritical Manufacturingに話を聞いた。
MESの1本化を進めるVishay
Vishay Intertechnology(以下、Vishay)は、ディスクリート半導体と受動部品の世界最大規模のポートフォリオを有する企業で、同社のデバイスは、航空宇宙や自動車、コンピューティング、民生、産業、軍事、通信、医療市場で使用される電子機器の動作を支えている。同社は現在100以上の工場を有するが、ここまで成長を遂げた要因の一つは、買収戦略にある。ITシステムおよびプロセスに関しては、独自開発の色合いが強い。従って、同社が、こうしたシステムにおいて不必要でコストのかかる複雑さを抱えることとなったのは、当然の結果といえる。
2018年以降、ペンシルベニア州マルバーンに拠点を置く同社のパッシブ事業部門は、製造実行システム(MES:Manufacturing Execution System)の1本化を進めている。MESを手掛けるCritical Manufacturingの事業開発責任者を務めるAugusto Vilarinho氏は、米国EE Timesに対し、「Vishayは、『MESのコア機能は、MESと類似したいくつかのレガシーシステムを置き換えることができる』という結論に達し、当社が提供するシステムを選択した」と語った。
同氏は、「レガシーシステムの置き換えを進めている一部の企業は、オンプレミスまたはクラウドベースのMESのいずれかを選択しているが、Vishayはハイブリッドなアプローチを取っている。同社はマルチラインの工場で新しいMESの導入を試験的に実施しており、現在は世界規模で同ソリューションの導入を進めている」と述べている。
Vilarinho氏は、「性能と接続性が鍵となる、高度に自動化された環境を使用する顧客の場合、1秒未満の応答が求められる。これは、ハイブリッドソリューションで実現可能である。例えば、複数のサイトにサービスを提供できるクラウドプラットフォームにコア機能があるようなソリューションだ。当社はVishayと30以上の工場で契約を結んでおり、50以上のレガシーアプリケーションを置き換えている。小型のハードウェアに機器を統合してインストールすることで、高性能で物理接続に近い接続性を実現し、残りのソリューションはクラウドに置いている」と説明している。
同氏は、「バッファリングメカニズムを備えたハイブリッドアプローチは、高度に自動化された環境で必要な信頼性と、グローバルなカスタマーセンターを実現するために必要な柔軟性を保証するものである」と続けた。
香港のASM Pacific Technologyの事業部門で、ポルトガルのポルトに拠点を置くCritical Manufacturingには、MES構築のタイミングを調査する、製品開発専門のスタッフがいる。顧客にとって、オンプレミスまたはクラウドベース、もしくはその2つのハイブリッドのうち、何をどのタイミングで構築するのが最適なのかを調査するのだ。これらのスタッフは、最新のIT製造インフラの柔軟性を高めるために一般的に使用されるコンテナへのソリューションの導入を実現した。
この他、Critical ManufacturingとMESの契約を結んでいる企業には、TDK Electronicsや自動車のティア1サプライヤーであるドイツのPrehがある。後者に関しては、6つの製造拠点でレガシーソリューションをMESに置き換えている。
Vilarinho氏は、「Prehのケースでは、同じソリューションで、射出成型や塗装、SMT(表面実装技術)、手動および自動組み立て、梱包と出荷など、全く異なる工程に対応している」と説明する。
研究活動向けのMESも
さらに、Critical Manufacturingが提供するMESは、世界最大規模の半導体研究開発機関であるベルギーimecと、ドイツの共同研究施設であるResearch Fab Microelectronics Germany(FMD:Forschungsfabrik Mikroelektronik Deutschland)に、量産ではなく研究開発活動で使用する実験ロットベースで採用されている。
Critical Manufacturingは、半導体のイノベーションメカニズムを促進することを目的として、FMDの13の機関のうち10の機関で共有されている1つの共通MESを作製した。FMDはプロモーション資料の中で、「FMDは、フラウンホーファー研究機構とライプニッツ協会という2つの強力な分散型研究組織の利点と集約型組織の相乗効果を兼ね備えており、マイクロエレクトロニクスおよびナノエレクトロニクス分野における応用研究、開発、イノベーションのための世界で最も強力なプロバイダーを目指している」と述べている。
Vilarinho氏は、「Critical Manufacturingは今後も、半導体とエレクトロニクスの双方において精力的に活動してきた実績を基に前進し続ける。当社は純粋なソフトウェアハウスで、半導体工程に対応したMESを提供しているため、ソフトウェア的な観点からの特殊性や要件に対応できる。さらに、ウエハー製造工程から、SMTや手動組み立てを含む電子機器の組み立て工程にも対応している」と述べている。
Critical Manufacturingは、原材料に関わる工程から完成品に関わる工程まで、幅広い工程に対応できるように、純粋なMESの背後にあるインフラを進化させた。
同インフラは、これまでも、そしてこれからも再構成可能だという。Vilarinho氏は、「現在、ノーコードソリューションへの移行を進めている。これにより、顧客は開発を行うことなく、自身でソリューションのモデル化や構成を行うことができる」と述べている。「同ソリューションは、電子機器製造と半導体製造の内部および、両者の間で再構成可能である」と付け加えた。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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