東京大、酸化物素子で磁気抵抗比を10倍以上に:新たな構造の2端子素子を作製
東京大学は、単結晶酸化物を用いて作製した強磁性体/半導体/強磁性体構造の横型2端子素子で、従来の10倍以上となる磁気抵抗比が得られたと発表した。この構造を用いて試作した3端子スピントランジスタ素子では、ゲート電圧によって電流を変調させることにも成功した。
3端子スピントランジスタ素子ではゲート電圧で電流を変調
東京大学大学院工学系研究科の遠藤達朗大学院生、小林正起准教授、Le Duc Anh准教授、関宗俊准教授、田畑仁教授、田中雅明教授、大矢忍教授らによる研究グループは2023年5月、単結晶酸化物を用いて作製した強磁性体/半導体/強磁性体構造の横型2端子素子で、従来の10倍以上となる磁気抵抗比が得られたと発表した。この構造を用いて試作した3端子スピントランジスタ素子では、ゲート電圧によって電流を変調させることにも成功した。
スピントランジスタ素子は、ソース電極とドレイン電極を金属の磁性材料(強磁性体)に置き換えたデバイス。これら強磁性体の磁化状態が「平行」か「反平行」かによって「0」と「1」の情報を記録する。電源を切ってもデータを保持できるため、集積回路の電力消費を低減できる。ただ、これまで報告されたスピントランジスタ素子は、磁気抵抗比の値が最大でも1〜10%以下と低く、実用レベルで大きな課題となっていた。
研究グループは今回、分子線エピタキシー法を用い、酸化物SrTiO3基板の上に単結晶La0.67Sr0.33MnO3薄膜を作製した。そして、幅40nm程度のエリアにアルゴンイオンを照射し酸素欠損を発生させた。これによって、局所的に半導体へ相転移させて半導体チャネル領域を形成、単結晶酸化物からなる強磁性体/半導体/強磁性体の横型2端子素子を作製した。
左(a)は今回作製した2端子素子の構造、中央(b)は従来の一般的な半導体と強磁性金属を組み合わせた素子構造の例、右(c)はLa0.67Sr0.33MnO3薄膜の断面走査透過型電子顕微鏡による格子像[クリックで拡大] 出所:東京大学
この素子は、3Kの低温環境で最大140%という高い磁気抵抗比を実現した。この値は、一般的な半導体と強磁性金属を組み合わせた従来の素子に比べ、10倍以上も大きいという。さらに研究グループは、新たに開発した構造を用いて3端子のスピントランジスタ素子を試作、ゲート電圧によって電流を変調できることも確認した。
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