グラファイト基板上に半導体ナノ量子細線を作製:厚みと幅は約1nm、長さは1μm超
京都大学や東京大学らの研究グループは、約1nmという厚みと幅で、長さが1μmを超える半導体の「ナノ量子細線」を作製したと発表した。この量子細線パターンは、原子スケールでチューリング機構が起こり、自発的に形成された可能性が高いという。
原子スケールで自発的に量子細線を形成し、規則的に配列
京都大学や東京大学らの研究グループは2023年5月、約1nmという厚みと幅で、長さが1μmを超える半導体の「ナノ量子細線」作製したと発表した。この量子細線パターンは、原子スケールでチューリング機構が起こり、自発的に形成された可能性が高いという。
研究グループは今回、パルスレーザー堆積法を用いて、グラファイト基板表面に高品質の塩化ルテニウム(RuCl3)薄膜を蒸着した。作製した試料の表面を走査型トンネル顕微鏡(STM)で観察した。これにより、約1nm幅のβ- RuCl3量子細線が、規則的に配列したパターンで、グラファイト基板の表面に形成されていることを確認した。このパターンは通常の薄膜成長で生じる「しま状成長」や「膜状成長」とは異なるものだという。
今回得られた量子細線の幅は、原子数個分という極めて細いものの、その長さは1μm以上である。しかも、蒸着時間や基板の温度を変えれば、量子細線の幅と間隔を調整できるという。また、開発した作製手法を用いると、「しま模様」だけでなくX字やY字の「ジャンクション・リング」や「渦巻き模様」といったパターンも形成することができる。これらのパターンは、量子回路や光感応デバイス、原子コイルなどへの応用が可能だという。
さらに研究グループは、主な量子細線パターンの形成機構が、非平衡プロセスである可能性が高いことを理論的に示した。これは、「量子細線は原子スケールのチューリングパターンによって形成された」ことを意味するものだという。また、トンネル伝導度の実験と理論的なバンド計算を比べることで、β-RuCl3の量子細線が「モット絶縁体」であることも明らかにした。
研究成果は、量子細線パターン自体を回路として用いるだけではなく、リソグラフィ用マスクとして、グラフェンなど他物質の微細加工にも応用できるとみている。
今回の研究は、京都大学大学院理学研究科の浅場智也特定准教授やPeng Langポスドク研究員(現華為科技)、小野孝浩修士課程学生(2022年3月卒業)、末次祥大助教、笠原裕一准教授、寺嶋孝仁教授、幸坂祐生教授、市川正敏講師、佐々真一教授、松田祐司教授および、東京大学大学院新領域創成科学研究科の芝内孝禎教授らと、ドイツのフランクフルト大学が共同で行った。
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