産業革新投資機構がJSR買収へ、業界再編を促す狙い:5〜7年後には再上場を目指す
産業革新投資機構(JIC)がTOB(株式公開買い付け)により、半導体材料メーカーのJSRを買収する。JSRは公開買い付け成立後に非公開化を予定。その後、事業成長や価値向上を実現してから再上場を目指す方針だ。
JSRは2023年6月26日、JICC-02による買収計画を取締役会で承認したと発表した。JICC-02は、産業革新投資機構(JIC)の傘下であるJICキャピタル(JICC)の100%子会社である。
買収は、JICC-02によるJSRの株式公開買い付け(TOB)の形で実施する。買付価格は、普通株式1株当たり4350円で、総額は約9000億円になる見込みだ。TOBは、国内外の規制当局の承認を得た上で、2023年12月にも開始する予定になっている。公開買い付け成立後は、スクイーズアウト手続きにより、JSRは上場を廃止し、JICC-02の完全子会社となる。
JSRのCEOを務めるEric Johnson氏は同日に開催されたオンライン記者会見で、今回の取引の背景について、経営基盤の強化、半導体材料業界再編の加速、そしてグローバルな競争の加速を狙うものだと説明した。「今後も半導体材料業界で最先端を走るためには、大規模な投資が必要であり、国際的な競争力も担保しなくてはならない。長期的な成長力を維持するために必要だった」(同氏)
特に、非公開化を選択した理由については「国内の半導体材料業界の再編に向けた意思を明確にするため」と繰り返した。政府系ファンドの傘下にあるという中立性を生かして、パートナー候補の企業と協議を進めることが可能になるとし、円滑な業界再編や統合が期待できるとした。
「日本の半導体材料業界はプレイヤーが多く、それぞれが重複した投資を行っている。激しい競争にさらされているのは各社とも同様の状況で、グローバルな競争力を高めるためには、投資の効率を高める必要がある。(今回の取引により)当社が“促進役”となって、業界再編の動きにつなげていきたい」(同氏)
なお、業界再編に向け、他の企業との協議や何らかのオファーは「現時点ではない」(Johnson氏)という。
さらに、JSRは「本取引を通じて事業成長および企業価値向上が実現した後は、再上場を目指す方針」としている。Johnson氏は「再上場やIPO(新規株式公開)の時期というのは予想しにくいものではあるが、5〜7年後くらいを考えている」とした。
JICは、前身である産業革新機構(INCJ)の時代から、特に半導体業界においては、経営難に陥った企業を支援する目的で出資することが多かった。2012年には、ジャパンディスプレイ(JDI)とルネサス エレクトロニクスを買収。2014年以降はJOLEDも支援している。Johnson氏は「当社は財務的に健全であるが、さらに成長を加速しないといけない。JSRは業界においても強い立ち位置を維持している。だからこそ、今、業界再編に乗り出すことによって競争力を高めることにつなげられると考えた」と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- FLOSFIAとJSR、イリジウム系成膜材料を新たに開発
FLOSFIAとJSRは、p型半導体である酸化イリジウムガリウムの実用化に向け、新たなイリジウム系成膜材料を共同開発したと発表した。新材料は、FLOSFIA製コランダム型酸化ガリウムパワー半導体「GaO」シリーズの第2世代ダイオードより適用する予定である。 - JSR、EUV露光用フォトレジストの米社を子会社に
JSRは、EUV(極端紫外線)露光用のメタル系フォトレジストを手掛ける米国Inpriaの全株式を取得し、完全子会社にすることで合意した。規制当局の承認を得て、2021年10月末には手続きを完了する予定である。 - TSMC、フォトレジスト材の品質不良で5億ドル超の損失
TSMCは、台湾南部にある同社最大規模の工場の一つである「Fab 14B」において、フォトレジスト材料の品質不良のために、ウエハーを廃棄処分したことを明らかにした。 - 「諦め感から風向き変わる」、半導体政策の本格化で
半導体製造装置や材料に焦点を当てた展示会「SEMICON Japan」が2022年12月14〜16日に東京ビッグサイトで開催される。今回、目玉の一つとなるのが、半導体パッケージングに特化したスペースとして新設される「Advanced Packaging and Chiplet Summit(APCS)」だ。SEMIジャパン代表取締役 浜島雅彦氏に、APCSの狙いや、昨今の半導体業界を取り巻く環境の変化などを聞いた。 - 「ムーアの法則」は終わらない 〜そこに“人間の欲望”がある限り
「半導体の微細化はもう限界ではないか?」と言われ始めて久しい。だが、相変わらず微細化は続いており、専門家たちの予測を超えて、加速している気配すらある。筆者は「ムーアの法則」も微細化も終わらないと考えている。なぜか――。それは、“人間の欲望”が、ムーアの法則を推し進める原動力となっているからだ。【修正あり】