VR機器など向け「業界最小」コモンモードフィルター:2.4GHz/5GHzで高いノイズ除去効果
TDKは高速差動伝送用薄膜コモンモードフィルター「TCM0403Tシリーズ」の量産を開始した。2.4GHz/5GHzでの高いノイズ除去効果および「業界最小」(同社)サイズを実現し、VR機器などの小型/薄型/軽量化を可能にするという。
TDKは2023年6月27日、高速インタフェース差動伝送用コモンモードフィルターの新製品「TCM0403Tシリーズ」の量産を開始したと発表した。2.4GHz/5GHzでの高いノイズ除去効果を発揮すると同時に、サイズは0.45mm×0.3mm×0.23mm(以下、0403サイズ)と「業界最小」(TDK)を実現。スマートフォンやタブレット端末、ウェアラブル機器などの高速インタフェースへの使用を想定し、機器の小型/薄型/軽量化を可能にするという。サンプル価格は1個当たり30円(税別)。同社甲府工場(山梨県南アルプス市)で、月産500万個規模の量産を予定している。
今回発表したのは、薄膜コモンモードフィルター「TCM」の新シリーズで、転送速度が5.4Gビット/秒(bps)以上であるDisplayPortやeDPおよび、5G〜12GbpsのHDMI2.0/HDMI2.1およびUSB3.0/3.1/3.2など、スマートフォンやタブレット端末、ウェアラブル機器等の高速差動伝送ライン向けの製品だ。
TDKは近年、モバイル端末やウェアラブル機器の実装密度削減/軽量化のニーズに向け、コモンモードフィルターの小型化を推進し、「業界最小サイズ」(同社)だという0403サイズ品のラインアップを拡充している。
同社は2021年にも高速差動伝送ライン向けの0403サイズ品をリリースしていたが、今回の新製品では、ノイズ対策での指標で重要となるコモンモードの減衰特性を向上。同時に、ディファレンシャル挿入損失のカットオフ周波数も8GHz以上と高周波対応を実現している。同社の説明担当者は、「高周波に対応した材料を用いると共に、TDKの磁気ヘッドで培った技術を応用した薄膜工法による独自のファインパターン化設計によって特性向上を実現した」と説明している。
「小型かつ高周波数帯域に特化」のニーズに応える
今回発表した新製品は、「TCM0403T-200-2P-T210」と「TCM0403T-080-2P-T210」の2つで、前者が2.4GHz、後者が5GHzに特化する形でコモンモード減衰特性を向上している。具体的には、TCM0403T-200-2P-T210は2.4GHzでの減衰量が42dBと、同サイズの既存品と比べ比べ約33%向上。TCM0403T-080-2P-T210は5.0GHzでの減衰量が34dBと、同サイズの既存品と比べ約50%向上している。
また、カットオフ周波数はそれぞれ8GHz、15GHzを実現。いずれも転送速度は最大12Gbpsレベルまで対応可能だという。
新製品は、VR機器のディスプレイへのデータ伝送ラインに使用することで、輻射ノイズを抑えることに寄与するという。
「Wi-Fi通信でVR機器を用いて動画などを閲覧する際、Wi-FiルーターからVR機器に向けて発信される信号は2.4GHzや5GHzが中心になると考えている。VR機器の輻射ノイズに同じ周波数帯のものが含まれると、それが信号の受信に干渉してしまい、機器の誤動作や画像の乱れにつながるリスクがある。2.4GHz/5GHzのノイズ抑制に特化した新製品をデータ伝送ラインに使用することで、VR機器からの輻射ノイズを抑え、画像の品質を維持できる」(TDK説明担当者)
従来、TDKの薄膜コモンモードフィルターのラインアップの中で、2.4GHzや5GHzの高周波数帯で強力なノイズ対策ができる製品は0605サイズのみだった。同社担当者は「今回の新製品によって『小型化と高周波数帯での急峻なコモンモード減衰特性の両立』というニーズに応えられるようになった。スマートフォンやウェアラブル端末など、軽量化が求められる製品に活用してもらいたい」と説明した。
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