「技術者が足りない」、半導体業界が苦しむ人材不足:TSMCの米工場も稼働開始に遅れ(2/2 ページ)
半導体業界の人材不足が各国/地域で深刻になっている。この影響により、TSMCは米国新工場の稼働開始を1年延期した。人材を確保できなければ、政府の半導体支援策の効果は乏しくなると業界関係者は指摘する。
米国では、2030年までに推定25万人の新規技術者が必要に
McKinseyによると、人材不足は、建設分野の労働力から、工場運営や半導体設計を担うエンジニアにまで広がっているという。
米国の半導体メーカーであるSkyWater Technologyは2023年7月初旬、コメントの中で、「急速に拡大する米国の半導体業界では、工場の運用と機器のメンテナンスに対応するために、2030年までに5万人のエンジニアと20万人の技術者を含む推定25万人の新規雇用者が必要になる」と述べている。
米国は国家安全保障をCHIPS法の優先事項に位置付けている。米国のエレクトロニクスサプライチェーンの脆弱性は、半導体からレアアースのような主要材料まで多岐にわたる。
半導体関連のリクルート企業であるMRL Consulting GroupのLauren Hart氏は、「米国では2022年に520億米ドルのCHIPS法刺激策が導入され、今後5年間で人材需要が急増すると予想されることから、報酬パッケージの高騰に拍車が掛かっている」と述べている。同氏はMRL Consultingのヘッドハンターとして、Samsung ElectronicsやInfineon Technologies、NXP Semiconductorsの工場があるテキサス州オースティン付近にエンジニアを紹介している。
MRL Consulting GroupのLauren Hart氏(写真左)。MRL Consulting Groupが2023年に米テキサス州オースティンで開催したイベント「Women in Semiconductors」にて 出所:MRL Consulting Group
Hart氏はEE Timesに対して、「過去2年間で、これらの給与パッケージは大幅に上昇した」と語った。
同氏は、「数年前はキャリア4年のエンジニアの給与は約10万ドルだったが、現在は急騰している。キャリア3年のエンジニアと面談したが、彼らは15万米ドルを要求している」と話している。
同氏は、「人材ギャップはさらに拡大すると思われる」と付け加えた。
「非常に熟練したエンジニアは数多くいるが、彼らは間もなく引退する。引退を控えた世代はたくさんいるのに、彼らの代わりに穴を埋める人材がいない。キャリア7〜15年のエンジニアが不足していて、そのスイートスポットを見つけることができない」(Hart氏)
米Purdue University(パデュー大学)は2022年、国内のチップ産業の再建を支援するために、米国初となる半導体工学の“包括的”学位プログラムを開始した。ニューヨークにあるRochester Institute of Technology(ロチェスター工科大学)も、半導体プログラムを提供する米国の数少ない学術機関の一つである。
それでも、人材の供給不足は今後も続くとみられる。
米国の半導体メーカーであるiDEAL Semiconductorのチェアマンを務めるMike Burns氏はEE Timesに対し、「米国は年間2万〜3万人のエンジニアを輩出している。彼らがどういった道に進むのかを注視する必要がある。最近就職したエンジニアの多くは、ウォール街やコンサルティング企業に進んでいる」と述べる。加えて、昨今はGoogleやAmazonといったハイテク企業が、エレクトロニクスエンジニアを、より好待遇で雇用するようになっている。
Burns氏は、ことし(2023年)はiDEAL Semiconductorの求人の最大15%が埋まらない可能性があると予想しているという。
「退役軍人」というリソースに着目する米国
TSMCやSamsungなどの企業はアジアでの工場運営に修士号や博士号を取得したエレクトロニクスエンジニアを頼りにしているが、米国のチップメーカーはその穴を埋めるために退役軍人に頼る必要があるだろう。
Hart氏は、半導体業界に応用できるスキルを持つ退役軍人たちの力を借りることも一つの手法だと述べる。同氏によれば、多くの退役軍人が核関連設備やさまざまな電気設備のメンテナンスなどに従事していたという。「われわれは、半導体業界に携わりたいとする退役軍人のサポートに注力していく」(同氏)
半導体業界の人手不足は、ドイツなど他の国/地域も直面している課題だ。German Economic Institute(ドイツ経済研究所)の報告書によると、ドイツは今後10年で半導体チップ関連の労働者のうち約3分の1が退職すると見積もられている。同報告書によれば、ドイツでは2021年6月から2022年6月までに6万人以上の半導体関連従事者が不足していた。
業界関係者らは、米国で建設中の新しい工場を運営するための人材を十分に確保できなければ、政府による半導体支援策の効果は乏しくなると指摘する。Burns氏は「CHIPS法によるROI(投資利益率)はどのくらいなのか。半導体関連の人材を確保できなければ、ROIはさらに低くなる可能性がある」と懸念を示した。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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