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大阪大ら、導電性ポリマー細線を3次元的に成長:脳型コンピュータの実現へ
大阪大学と北海道大学の研究グループは、導電性ポリマー細線を3次元的に成長させられることを実証した。この技術を用いると、人間の脳のように学習する脳型コンピュータを実現することが可能となる。
ネットワークに連想記憶が付与できることを示す
大阪大学大学院理学研究科/北海道大学大学院情報科学研究院の赤井恵教授、北海道大学大学院情報科学院の萩原成基氏(博士後期課程)らによる研究グループは2023年8月、導電性ポリマー細線を3次元的に成長させられることを実証したと発表した。この技術を用いると、人間の脳のように学習する脳型コンピュータを実現することが可能となる。
導電性ポリマー細線はこれまで、2次元平面上での配線しか行われていなかったという。研究グループは今回、溶液中で電解重合成長し、電極間を配線できる導電性ポリマー細線を用いれば、脳内の3次元的な局所結合が再現できることを発見した。溶液中に配置された複数の立体電極間に重合電圧を加えることで、導電性ポリマー細線が3次元的に成長する様子も観測した。
また、電圧を印加する時間を調整すれば配線本数を制御できるという。これを活用して各電極間の抵抗値を高い精度で、希望する値に制御できることも実証した。これらは、「軸索誘導による脳内ネットワーク形成過程」と、「シナプス可塑性による脳の学習過程」に相当するという。
実際、ニューロン同士の相関関係を、ヘブ則に基づいて学習させることに成功するなど、ネットワークに連想記憶を与えられることを示した。さらに、構築した3次元ネットワークに電圧パルスを加えると、脳内で見られる「側抑制」に相当する抵抗変化が観測されることも明らかにした。
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