GaNへのスピン注入を「低電力・高効率」で実現:次世代のスピン発光デバイス向け
大阪大学は、GaN(窒化ガリウム)上にホイスラー合金磁石をエピタキシャル成長させ、接合抵抗値が極めて小さいスピン注入電極構造を開発することに成功した。この技術を用いて試作したデバイスは、室温で従来の3〜4倍という高いスピン注入効率が得られることを確認した。
ホイスラー合金磁石とGaNの接合界面にCoを挿入
大阪大学は2023年5月、GaN(窒化ガリウム)上にホイスラー合金磁石をエピタキシャル成長させ、接合抵抗値が極めて小さいスピン注入電極構造を開発することに成功したと発表した。この技術を用いて試作したデバイスは、室温で従来の3〜4倍という高いスピン注入効率が得られることを確認した。
GaNは、パワー半導体材料として需要が拡大している。また、スピン発光デバイス用の半導体材料としても注目されているが、実用レベルでは課題もあったという。それは、絶縁体トンネルバリア層を用いた高抵抗の電極構造がこれまでは一般的で、デバイス動作に大電圧が必要となったり、スピン注入効率もよくなかったりしたからだ。
研究グループは今回、ホイスラー合金磁石とGaNの接合界面に、六方最密充填(じゅうてん)結晶構造のコバルト(Co)を数原子層(約0.4nm)挿入し、GaN上にホイスラー合金磁石をエピタキシャル成長させた。これにより、ショットキートンネル直接接合を実現した。
さらに、独自開発した微細加工プロセスを用い、ショットキートンネル直接接合の電極構造を採用したテストデバイスを作製、室温でスピン注入信号を観測した。接合抵抗値は従来構造に比べ3桁以上も小さくなり、低い消費電力でスピン注入が可能となった。また、スピン注入効率は従来に比べ、3〜4倍以上も高いという。
今回の研究成果は、大阪大学大学院基礎工学研究科の山田晋也准教授(当時は助教)、加藤昌稔氏(当時は大学院基礎工学研究科博士前期課程)、浜屋宏平教授、同大学大学院工学研究科の市川修平助教および、藤原康文教授らによるものである。
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