薄膜型全固体電池内の化学反応を“丸ごと”可視化、東北大ら:X線顕微鏡で非破壊観測
東北大学、名古屋大学、ファインセラミックスセンター、高輝度光科学研究センターらの研究グループは2023年8月4日、充放電中の薄膜型全固体電池における化学状態変化を“丸ごと”可視化することに成功したと発表した。
東北大学、名古屋大学、ファインセラミックスセンター、高輝度光科学研究センターらの研究グループは2023年8月4日、充放電中の薄膜型全固体電池における正極-電解質-負極層の化学状態変化を「同一視野内で“丸ごと”可視化」することに成功したと発表した。薄膜型全固体電池システム全体の反応/劣化メカニズムの理解が進むことで、性能向上への貢献が期待できる。
全固体電池は、液漏れによる発火の心配がなく、高温高圧などの極限状態でも安全に使用できるほか、比較的自由に計上を構成可能なことから次世代二次電池として研究が進んでいる。一方で、充放電サイクルの繰り返しによる電極のクラックや不活性層の発生など、実用化には課題がある。
近年は、こうした課題解決のため、薄膜型電池試料を用いて、顕微分光法による化学状態の分析が行われている。例えば、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いた電子エネルギー損失分光法(EELS)「STEM-EELS」で、試料の厚さを100nm以下まで薄くする必要があり、観察視野も限られるため、薄膜全固体電池試料断面全体の反応変化を詳細かつ総合的に可視化することは難しかった。
同研究グループは、大型放射光施設「SPring-8」で全視野結像型透過 X 線顕微鏡-X 線吸収微細構造(TXM-XAFS)計測のもつ空間分解能および視野サイズと、薄膜型全固体電池の断面スケールが適合することに着目。TXM−XAFS測定によって、充放電過程における薄膜型全固体電池内の正極-電解質-負極層の化学状態変化を「同一視野内で“丸ごと”可視化」することに初めて成功したという。
具体的には、まず薄膜型全固体電池試料として、Li1+x+yAlxTi2-xSiyP3-yO12(LATP)という固体電解質シート(厚さ50μm)上に、コバルト酸リチウム(LiCoO2、以下、LCO)を正極層(厚さ1.41μm)、三モリブデン酸二鉄(Fe2(MoO4)3、以下、FMO)を負極層(厚さ1.15μm)として積層させたものを使用。TXM-XAFS計測では、直径60μm程度の視野サイズを同時に最大100nmの空間分解能で観察可能なため、今回の場合、薄膜電池試料の厚さに適合。正極/負極の構造を同一視野で観察できた。なお、測定に当たっては、事前に薄膜電池の観察領域を電池の機能を損なわないよう注意深く18〜20μm幅に切断加工している。
同研究グループはリリースで「今回の計測法は、コンピュータ断層撮影(CT)法と組み合わせることで反応や劣化の分布を3次元的に調べることが可能になる。また、X線タイコグラフィなどのX線顕微鏡技術と組み合わせることで、広視野の大局的観察とより詳細な観察を合わせたマルチスケール顕微イメージングもできる。リチウムイオン蓄電池系以外にも、触媒反応系や燃料電池セルなど、実は詳しく分かっていないデバイス内部の反応分布や傾向をより深く理解できるようになり、材料やセル設計の最適化や性能向上につながることが期待される」とコメントした。
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