マグネシウム金属蓄電池をドライルームで製造:人工亜鉛被膜で酸素の透過を抑制
物質・材料研究機構(NIMS)は、ドライルームでマグネシウム金属蓄電池の製造を可能にする基盤技術を開発した。リチウムイオン電池を製造している既存のラインを、マグネシウム金属蓄電池の製造ラインに転用できる可能性がある。
リチウムイオン電池の生産ラインをマグネシウム金属蓄電池用に転用可能
物質・材料研究機構(NIMS)は2023年5月、ドライルームでマグネシウム金属蓄電池の製造を可能にする基盤技術を開発したと発表した。この技術を実用化すると、リチウムイオン電池を製造している既存のラインを、マグネシウム金属蓄電池の製造ラインに転用できるという。
マグネシウム金属蓄電池は、リチウムイオン電池を上回るエネルギー密度が見込める。コストや生産性に優れ、資源や環境の問題も極めて少ないことから、大規模蓄電池としての応用が期待されている。半面、マグネシウム金属は、酸素や水分に触れると表面に酸化物被膜が形成され、不活性化するという課題があった。このため、不活性ガス中での作業が求められていた。
そこで研究チームは、マグネシウム金属が不活性化するメカニズムを解明することにした。実験ではまず、蓄電池の評価セルをドライルームと同一環境の「乾燥チャンバー」内で組み立てた。この試料を用い電圧電流の測定を行ったが、電流応答は全く観測されなかった。
続いて、乾燥チャンバー内で研磨したマグネシウムを用い、アルゴンで満たした「グローブボックス」内で再び、電圧電流を測定した。そうしたところ、マグネシウム金属の溶解析出反応を示す電流応答が観測されたという。つまり、乾燥した環境下で形成した被膜は電気化学反応を阻害しないことが分かった。
この要因を解明するため、乾燥空気の成分である「窒素」「酸素」「アルゴン」の各ガスを一定時間導入し、改めて電圧電流を測定した。この結果、酸素ガスを導入した時だけ、電気化学活性が失われることが分かった。今回の実験結果から研究チームは、「電解液−溶存酸素−マグネシウム金属の三相境界面に不働態被膜が形成され、マグネシウム金属が不活性化する」という仮説を立てた。
研究チームの仮説が正しければ、溶存酸素とマグネシウム金属が接触しないと、乾燥空気中でもマグネシウムの電気化学反応(溶解析出反応)が起こり、電池負極として機能することになる。
そこで、注目したのがマグネシウムよりもイオン化をしにくい「亜鉛」である。亜鉛イオンを含む溶液にマグネシウム金属を浸すと、表面に亜鉛が析出し同時にマグネシウムイオンが溶出される。析出した亜鉛は、マグネシウム表面に強く結着することが期待されている。
実験で、ジエチル亜鉛のエーテル溶液を前処理液として用いたところ、良好な酸素バリア特性が現れたという。ジエチル亜鉛溶液で処理したマグネシウムは、乾燥空気中で5時間以上も電気化学的反応が持続することを確認した。
上段は亜鉛溶液とマグネシウム金属の反応模式図。中段は各種亜鉛化合物を含む溶液で処理したマグネシウム金属の乾燥空気雰囲気下における電流電圧応答。下段は人工被膜を被覆したマグネシウム金属断面の電子顕微鏡像 出所:NIMS
研究チームは、今回開発した人工被膜でマグネシウム金属を覆い、乾燥チャンバーおよびグローブボックス内でマグネシウム金属蓄電池を作成した。そして、これらは同等の充放電特性が得られることを確認した。これらの結果から、マグネシウム金属負極をドライルームで活性状態に保つためには、表面化学処理が有効であることを実証した。
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