繰り返し充放電が可能な全固体空気二次電池を開発:有機化合物と高分子薄膜を組み合わせ
山梨大学と早稲田大学の研究グループは、繰り返し充放電が可能な「全固体空気二次電池」を開発した。酸化還元反応する有機化合物とプロトン伝導性の高分子薄膜を組み合わせることで実現した。
放電速度15Cの発電実験で、30回繰り返し充放電を確認
山梨大学クリーンエネルギー研究センター/早稲田大学理工学術院の宮武健治教授と早稲田大学理工学術院の小柳津研一教授らによる研究グループは2023年5月、繰り返し充放電が可能な「全固体空気二次電池」を開発したと発表した。酸化還元反応をする有機化合物とプロトン伝導性の高分子薄膜を組み合わせることで実現した。
空気二次電池は、空気中の酸素(正極活物質)と金属(負極活物質)、イオン伝導性の電解質からなる。他の二次電池に比べ、極めて高い理論エネルギー密度を持つ。ただ、液体電解質を用いると液体の漏れや蒸発、発火などの心配がある。また、酸素や水分により、負極活物質が劣化することも課題となっていた。
研究グループは今回、有機化合物を用いた電極と固体電解質から成る全固体空気二次電池を開発することにした。負極活物質としては有機レドックス化合物(ジヒドロキシベンゾキノンおよびその重合体)を、電解質としてはプロトン伝導性高分子薄膜(ナフィオン)を、正極には白金触媒を含むガス拡散電極(活物質は酸素)をそれぞれ用いた。
具体的には、負極活物質の酸化還元反応を促進し、電解質膜との界面におけるプロトン移動を円滑に行うため、電子伝導性材料(カーボン粉末)とプロトン伝導性高分子(ナフィオン)を混合した負極構造とした。
開発した全固体空気二次電池の充放電やレート特性、サイクル特性を評価した。一定速度(放電速度15C)での発電実験では、30回繰り返して充放電が可能であることを確認した。また、ジヒドロキシベンゾキノンを高分子化すると、負極活物質の利用率が40%以上も改善し、全固体空気二次電池の容量は6倍以上も向上することが分かった。
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