充電時間「ゼロ」を実現するバッテリ交換システム:福田昭のデバイス通信(415) 2022年度版実装技術ロードマップ(39)(1/2 ページ)
今回は、電気自動車(EV)の充電インフラでも設計思想が全く異なる、バッテリ交換式システムをご紹介する。
ガソリンスタンドからバッテリ交換ステーションへ
電子情報技術産業協会(JEITA)が3年ぶりに実装技術ロードマップを更新し、「2022年度版 実装技術ロードマップ」(書籍)を2022年7月に発行した。本コラムではロードマップの策定を担当したJEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会の協力を得て、ロードマップの概要を本コラムの第377回からシリーズで紹介してきた。
本シリーズの前々回(第37回)と前回(第38回)では、電気自動車(EV:Electric Vehicle)の普及に不可欠な充電インフラストラクチャー(充電インフラ)の概要を述べた。ロードマップ本体では「2.5.3.4 EV用インフラ(インフラストラクチャー)」の(1)〜(3)に相当する部分である。急速充電器の改良と標準化が特に重要であることをご説明した。
今回は充電インフラでも設計思想が全く異なる、バッテリ交換式システムをご紹介する。ロードマップ本体では「2.5.3.4 EV用インフラ(インフラストラクチャー)」の(5)に相当する部分となる。なお(4)の「ワイヤレス給電」は研究開発段階であるため、説明を割愛させていただく。ご了承されたい。
バッテリ交換システムのメリットは明らかだ。充電時間がほぼ「ゼロ」になることに尽きる。必要なのは交換作業に要する時間で、普通自動車で交換時間は2分以下、大型自動車でも交換作業は5分以下で済むとされる。急速充電器が普通乗用車でも30分(80%充電の場合)を要するのとは大きく異なる。ガソリンスタンドの燃料補給時間とほとんど変わらないという交換式の利点は小さくない。
交換作業は例えば、以下のように進む。EV(バッテリ交換式EV)の運転者はまず、バッテリ交換ステーション(ガソリンスタンドのような店舗)に行く。ステーションでは、所定の位置にEVを停止させる。ここからは全てが自動で進む。EVの底面からバッテリを外し、充電済みのバッテリをEVに取り付ける。運転者はEVの交換が完了したこと(満充電状態になったこと)を確認し、クルマを発進させる。
バッテリ交換式の利点と課題
交換式のメリットはそれだけではない。バッテリ交換式EVの基本的なコストにはバッテリが含まれないので、車両価格を安くできる。バッテリの容量による違いはもちろんあるものの、普通車タイプで100万円以上、大型車タイプで200万円以上の差が付く。
また現在のガソリンスタンドを改装し、バッテリ交換ステーションとして再利用できる。EVの普及によって既存のガソリンスタンドが縮小を余儀なくされる中で、ガソリンからバッテリへの転換を図れるようになる。
ただし、大きな課題が3つある。1つは標準化だ。交換用バッテリとバッテリ交換用EV、交換ステーションはともに、フォームファクタ(各部の寸法)や電気仕様、通信仕様などを規格化しておく必要がある。バッテリメーカーやEV(自動車)メーカーなどの協業が欠かせない。
もう1つは品質保証である。バッテリを内蔵する非交換型のEVは、バッテリを含めて車両の品質をEVメーカーが保証している。従来の内燃機関式自動車と同じだ。しかしバッテリ交換式の場合、バッテリの品質を誰が保証するのかという課題が残る。ここは自動車メーカー(EVメーカー)にとって非常に高いハードルとなる。バッテリに起因する不具合であろうとなかろうと、EVのユーザーはたぶん、EVメーカーにクレームを申告するからだ。
最後はビジネスモデルである。交換ステーションの建設・維持コスト、交換式バッテリの再充電・維持コスト、バッテリ交換によって発生する料金のプランと金額設定、コスト負担と収入分配の取り決めなどのコスト要素と収入要素がある。EVユーザーが納得しやすい料金プランを設定しながら、利害関係を調整しなければならない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.