充電時間「ゼロ」を実現するバッテリ交換システム:福田昭のデバイス通信(415) 2022年度版実装技術ロードマップ(39)(2/2 ページ)
今回は、電気自動車(EV)の充電インフラでも設計思想が全く異なる、バッテリ交換式システムをご紹介する。
「EV大国」の中国でバッテリ交換式EVの実用化が進む
バッテリ交換式のEVは、「EV大国」とも呼ばれ、世界最大のEV普及台数を誇る中国で実用化が進んでいる。大きな理由に、EV用バッテリの最大手メーカーであるCATL(Contemporary Amperex Technology Co., Limited.)がバッテリ交換式EVの要素技術を開発するとともに、規格化と商用化を中国でけん引していることがある。
電池交換式の3つのメリットと中国の状況。本文テキストは入手可能な範囲で最新の数値を記述しているため、数値が一致していないことがある。留意されたい[クリックで拡大] 出所:JEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会(2022年7月7日に開催された完成報告会のスライド)
EVバッテリ最大手のCATLが主導することで、バッテリの品質が一応は担保される。また中国のバッテリ交換式EVメーカーのNIO(ニオ)とCATLは提携し、NIOが展開する交換ステーションにCATLがバッテリを供給している。なおNIOの交換ステーションは2022年11月6日時点で1200箇所に達した。
NIOのバッテリ交換サービスはサブスクリプション方式であり、月額2万円のプランや同3万円のプランなどがある。また同じ車種でもバッテリ内蔵型とバッテリ交換型を用意しており、車両価格はバッテリ交換型が140万円〜200万円ほど安い。
なおCATLは大型トラックメーカーや重機メーカーなどとも提携しており、大型自動車へのバッテリ交換式EVの普及も後押ししている。
日本でもバッテリ交換式のモビリティ向けサービスが動き出す
日本でもバッテリ交換式のサービスが動き出している。2022年4月1日には、石油元売り大手のENEOSホールディングスと自動二輪メーカーの本田技研工業、カワサキモータース、スズキ、ヤマハ発動機の5社が出資して電動二輪車のバッテリシェアリングサービスとサービス用インフラ整備を目的とする合弁企業「株式会社Gachaco(ガチャコ)」を設立した。Gachacoは2023年7月時点で法人向けにバッテリ交換サービスを提供している。サービスに対応した電動二輪車(いずれもスクータータイプ)は本田技研工業が7車種を販売中である。
またENEOSホールディングスは米国のバッテリ交換ステーション事業ベンチャーAmpleと提携し、日本国内でバッテリ交換ステーションを事業展開していくと2021年8月に発表した。
バッテリ交換ステーションの事例。左のa)とb)は、ENEOSホールディングスとAmpleが共同で展開を検討しているステーションの外観。右は2010年前後に米国のベンチャーBetter Placeが提唱したバッテリ交換事業と現在の中国で実用化が進んでいるバッテリ交換事業の概要[クリックで拡大] 出所:JEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会(2022年7月7日に開催された完成報告会のスライド)
2010年前後には、米国のベンチャー企業Better Placeがバッテリ交換ステーションを提唱して日本を含めた世界各地でデモンストレーションを実施した。しかし事業はうまくいかず、2013年5月にBetter Placeは会社を清算した。当時はバッテリ搭載型EV(BEV)そのものが黎明期(日産自動車が世界初の量産型BEV「リーフ」を発売したのは2010年12月)であり、バッテリを中心にEV技術開発の競争が激しかった。このため、有力な自動車メーカーやEV用バッテリメーカーなどの協力を得られなかったことが、事業が頓挫したことの大きな要因として挙げられる。
現在の中国でも、バッテリ交換式がうまくいくとは限らない。前回でも述べたように、中国国内の急速充電器(GB/T規格)設置数は2020年末で30万基に達している。NIOが設置した交換ステーションの数は2022年11月時点で1200箇所にすぎない。急速充電器の100分の1以下である。しかもNIOは膨大な赤字を出しながら、交換ステーションを増やしている。インフラの先行投資という意味では、バッテリ交換ステーションは急速充電器よりもはるかに高くつく。NIOが「第2のBetter Place」になってしまう懸念は残る。
中国の潜在的なEV市場は膨大であり、単純に見れば、急速充電器と交換式が並立する余地はある。EV用バッテリ最大手のCATLが交換式にどこまで本気で取り組み続けるか。自動車メーカー、特に大型自動車メーカーが交換式にどこまで積極的に参加するのか。このあたりが将来を左右しそうだ。
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