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Apple M2 Ultraと「たまごっち ユニ」から見える、米中半導体の位置付けこの10年で起こったこと、次の10年で起こること(76)(1/3 ページ)

今回は、Appleのモンスター級プロセッサ「M2 Ultra」と、バンダイの「Tamagotchi Uni(たまごっち ユニ)」を分解。そこから、米中の半導体メーカーが目指す戦略を読み解く。

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 前回に続き、Appleのモンスター級プロセッサ「M2 Ultra」に関して報告する。M2 Ultraは2023年6月に発売されたApple最上位のコンピュータ、「Mac Pro」「Mac Studio」に採用されている。プロセッサ部は、2023年2月発売の「MacBook Pro」に採用された「M2 Max」(12コアCPU、38コアGPU)が2基向かい合わせで接続され(Apple独自のインタフェースで接続されている。詳細は有償情報で提供)、演算器数はCPUが24コア、GPUが76コアと、Intel、AMD、NVIDIAなどのプロセッサ専業メーカーにも引けを取らないコア搭載数となっている。

 CPU、GPUだけでなく2基の「M2 Max」を使うことで、DRAMとのインタフェースも2倍になり、最大192GBのユニファイドメモリ(LPDDR5)を接続できる。8個のDRAMチップをつなぐので、最大の場合には2GBのLPDDR5を6枚重ねるものとなる。

 トランジスタ数は、M2 Maxが670億個、M2 Ultraは2倍の1340億個。NVIDIAが2022年末に発売したGPU「GeForce RTX 4090」も最大級のトランジスタを搭載していて、その数は763億個である。AppleのM2 Max/M2 Ultraは、NVIDIAの最大級GPUに並ぶ規模のトランジスタを搭載しているわけだ。

 図1は、Apple M2 Ultraのモジュール上面の様子(裏面には7000を超える端子が備わっている)、プロセッサ下部のガラエポ、プロセッサ2基を取り外した様子である。パッケージは手のひらに乗るサイズとなっている。

Apple「M2 Ultra」を開封した様子
図1:Apple「M2 Ultra」を開封した様子[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート

 プロセッサ下部のガラエポには多数の穴が開いていて、この場所にはシリコンキャパシターが埋め込まれている。シリコンキャパシターはトータルで58個。それぞれのシリコンキャパシターはCPUの直上、GPU、NE(Neural Engine)の直上、DRAMインタフェース、チップ間接続部など、活性化率が高くノイズ源となる演算器、高速インタフェースを覆っている。

 インダクターや抵抗成分などを加味すると、演算器の直上にキャパシターを配置することは特性面での効果が高い。M2 Ultraでは58個ものシリコンキャパシターを埋め込むことで、電源の安定化など特性面での対策を行っている。

 M2 Ultraは機能面でも大手プロセッサメーカーのチップに引けを取らないが、特性面でも十分に配慮されている。M2 Ultraのモジュールの周辺には電源制御ICが4基配置されている。これらの電源ICもAppleが独自に開発したもので、Appleによる最適な制御が成されている。電源も最適化し、特性を最大限に引き出したプロセッサが、M2 Ultraモジュールなのだ。

1万本を超えるシリコンインターポーザー

 図2は、2基のM2 Maxを接続するシリコンインターポーザーの様子である。シリコンインターポーザーは名前の通り、トランジスタを形成せず、2つ以上のシリコンを接続するために活用されるシリコンである。通常の基板に対してシリコン上に配線を形成するので線幅や間隔を極小化でき、膨大な信号をつなぐことが可能だ。Appleの発表によれば、M2 Max同士を接続する配線は、1万本を超えるという。

2基の「M2 Max」を接続しているシリコンインターポーザーのSEM画像
図2:2基の「M2 Max」を接続しているシリコンインターポーザーのSEM画像[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート

 図2の左側は、M2 Max 2基とその下に埋め込まれているシリコンインターポーザーの外観である。2つのM2 Maxのインタフェース部分のみを覆うような、細長いものになっているのが分かる。プロセッサ同士を接続することが目的なので大きな面積を必要としない。

 図2右は、M2 Ultraではなく、1世代前の「M1 Ultra」(M1 Max×2基)のプロセッサ接合部の断面SEM写真である。

 2つのシリコンが向かい合い、接続部を覆う形でシリコンインターポーザーが埋め込まれている。どのように接続しているかは省略する。シリコンインターポーザーは、細長いだけでなく非常に薄いシリコンとなっている。図2右から分かるように、プロセッサのシリコンやシリコンキャパシターは分厚いが、インターポーザーは極めて薄い。

 AI向けGPUなどに採用されるHBM(High Bandwidth Memory)にもシリコンインターポーザーが使われるが、多くはGPUシリコンとHBMシリコンを全て覆うような大きなものとなっている。今回はHBMで使用されるシリコンインターポーザーの写真は掲載しないが、大きなものだと4×3cmくらいのサイズのチップもある。AppleのM2 Ultraでは(M1 Ultraも)、プロセッサ同士の接合部だけを覆う小面積の薄いシリコンインターポーザーとなっている。モジュール内のプロセッサ下部に溶け込むように組み込まれているのだ!

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