「半導体法」で競争が過熱、業界の未来はどこに向かう?:協調による発展か、“底辺への競争”か(2/2 ページ)
「CHIPS and Science Act(CHIPS法)」をきっかけに、各国が自国の半導体産業強化に向け数十億米ドル規模の補助金を投じる、世界的な競争が始まった。こうした現象について、情報通のオブザーバーらが論争を交わしている。彼らが共通して促すのが、各国の "半導体法"に起因する協調だ。
「“底辺への競争”生み出した」と指摘も
一方、別の研究者は、こうした協力関係はMiller氏が指摘するより少ないと見ている。
米国のCHIPS法の支持者が、同法は新たな雇用の創出とサプライチェーンの強化、半導体の最大のライバルである中国からの独立性の向上、チップの国内製造の回復を約束するものだとする一方で、同法の保護主義的な意味合いと世界的な影響を懸念する声もある。
米国コーネル大学Tech Policy InstituteのディレクターであるSarah Kreps氏はEE Timesに対し、「この一連の政策は、自国の産業を防護して支えようとする他の国々が、米国の政策を模倣して自国や地域でのチップ生産を支援することで “底辺への競争*)”を生み出した。その結果、各国が自給自足に向かおうとするにつれて、アクセスや供給、価格、品質が損なわれることになる」と語った。
*)「底辺への競争」:国家が外国企業の誘致や産業育成のため、減税、労働基準・環境基準の緩和などを競うことで、労働環境や自然環境、社会福祉などが最低水準へと向かうこと(出典:Weblio 英和対訳)
Kreps氏は、米国国立標準技術研究所(NIST)のディレクターを務めるLaurie E. Locascio氏が2023年3月に米国科学振興協会(AAAS)のビジネスミーティングで述べた、「われわれは商務省を越えて国務省とも連携し、世界的な協調に向けた戦略を立てている。協力できる強力なパートナーがいるのに、世界中でチップ戦争を引き起こしたくはない」という発言にも動じていない。
Kreps氏は、「これは、言葉と行動が乖離している。裏の意味をはらんだ保護主義政策は、たとえ声明が意図していないとしてもゼロサムだ。声明が重要でないわけではないが、他国は自国の産業に不利益を与えない行動を望んでいる」と述べている。
NISTは、Locascio氏や他の代表者へのインタビューを拒否し、代わりに商務省からの後ろ盾を示すために用意した次のコメントを提供した。
「商務省はCHIP法を施行する中で、韓国、日本、インド、英国との関わりを持ち、インド太平洋経済枠組み、欧州連合・米国貿易技術評議会、北米首脳会議を通じて、米国のパートナーや同盟国と緊密に連絡を取り合ってきた。同省は、米国のパートナーや同盟国との緊密な調整を続け、これらの共通の目標と集団安全保障を推進し、グローバルサプライチェーンを強化していく」
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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