東京農工大、高純度のβ型酸化ガリウム結晶を高速成長:有機金属気相成長法で実現
東京農工大学は、大陽日酸および大陽日酸CSEと共同で、有機金属気相成長(MOVPE)法を用い、高純度のβ型酸化ガリウム結晶を高速成長させることに成功した。電力損失を大幅に低減した次世代パワーデバイスの量産につながる技術とみられている。
成長速度は毎時16.2μmへ、製膜の表面平坦性にも優れる
東京農工大学は2023年9月、大陽日酸および大陽日酸CSEと共同で、有機金属気相成長(MOVPE)法を用い、高純度のβ型酸化ガリウム(β-Ga2O3)結晶を高速成長させることに成功したと発表した。電力損失を大幅に低減した次世代パワーデバイスの量産につながる技術とみられている。
β-Ga2O3結晶は、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)の結晶よりバンドギャップが大きく、作製したデバイスの電力損失を大幅に低減できる。Si(シリコン)デバイスに比べると電力損失は約3000分の1になるという。融液から単結晶ウエハーを量産できるため、デバイスの製造コストを大幅に抑えることもできる。
東京農工大学の熊谷研究室はこれまで、ハライド気相成長(HVPE)法による高純度β-Ga2O3の高速成長技術を確立してきた。ところが、HVPE法は複雑なデバイス構造の形成に対応できないという課題もあった。そこで注目したのが、GaN系デバイスなどの量産で実績のある「MOVPE法」を適用することであった。
熊谷研究室は今回、MOVPE装置の大手メーカーである大陽日酸や大陽日酸CSEと共同で、「ガリウムの有機金属化合物と酸素(O2)ガスの反応メカニズム解明」および、「β-Ga2O3結晶成長の条件探索」を行った。そして、有機金属由来の炭素と水素が完全燃焼し、二酸化炭素と水になる条件下において、高純度のβ-Ga2O3がMOVPE成長できることを解明した。
これらの研究成果を基に、最大2インチ径のウエハー1枚をフェースダウン配置できる減圧ホットウォール型MOVPE装置「FR2000-OX」を開発、東京農工大学に設置した。今回は、「トリメチルガリウム(TMGa)」を用いて、高純度β-Ga2O3結晶の高速成長に取り組んだ。
実験では、TMGaとO2の反応を熱力学的に解析。同時に成長炉内に存在する分子種を飛行時間型質量分析器で解析した。これにより、TMGaに対してO2の供給量を大きくすれば完全燃焼が進み、2インチ径のウエハー上にβ-Ga2O3が均一に成長することを確認した。しかも、炉内圧力範囲が2.4〜3.4kPaの時だけ、一定の成長速度が得られ炭素汚染も抑制できた。水素(H)や窒素(N)、Siといった不純物は検出されなかったという。
さらに、成長温度1000℃、炉内圧力2.4kPa、酸素供給分圧570Paという条件下で、β-Ga2O3(010)ウエハー上にTMGa供給量を毎分34〜550μmolで変化させた。この結果、毎時0.9μmだった成長速度は、毎時16.2μmまで速くなった。しかも、毎時16.2μmで1時間成長させたホモエピタキシャル厚膜は、表面平坦性も優れていることを確認した。
大陽日酸イノベーションユニットCSE事業部は今後、開発したFR2000-OXをベースに、ホモエピタキシャルウエハーの少量生産用機あるいは大規模量産機の開発に取り組む予定である。
今回の研究は、東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の熊谷義直教授や後藤健助教らと同大学未来価値創造研究教育特区の佐々木捷悟特任助教らが、大陽日酸イノベーションユニットCSE事業部の吉永純也氏、朴冠錫氏、池永和正博士および大陽日酸CSEフェローの伴雄三郎博士らと共同で行った。
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