マグネシウム蓄電池向けの酸化物正極材料を開発:室温で高エネルギー動作が可能に
東北大学や慶應義塾大学などの研究チームは、マグネシウム蓄電池の正極材料として、スピネル型のマグネシウムマンガン系酸化物を開発した。
ナノ粒子化技術と多孔質化技術を融合し、新たな合成技術を開発
東北大学多元物質科学研究所の小林弘明講師や慶應義塾大学の今井宏明教授らによる研究チームは2023年1月、マグネシウム蓄電池の正極材料として、スピネル型のマグネシウムマンガン系酸化物(MgMn2O4)を開発したと発表した。この材料を用いれば、室温でマグネシウム蓄電池の高エネルギー動作が可能になるとする。
マグネシウム蓄電池の正極としてこれまでは、「硫化物材料」が開発されてきたが、低電圧動作のためエネルギー密度が小さかったという。リチウムイオン電池のエネルギー密度を超えるためには、高電圧動作が可能な「酸化物材料」が必要といわれてきたが、正極に適した酸化物材料はこれまで見つかっていなかった。
研究チームは今回、MgMn2O4スピネルに注目した。そして、小林氏が得意とする「ナノ粒子化技術」と、今井氏が得意とする「多孔質化技術」などを集結し、ナノ粒子と多孔質を両立させた正極材料を合成するための技術を開発した。具体的には、粒子サイズが5nm以下という極小ナノ粒子を合成できる「アルコール還元法」と、多孔質粒子合成が可能な「凍結乾燥法」を組み合わせた技術である。
この技術を用い、粒子サイズが2.5nm以下で、比表面積が500m2/g以上の超多孔質極小ナノスピネルを合成することに成功した。開発した材料の表面は水と強く結合していたが、低温で熱処理し酸化物表面を活性化させることで、理論容量となる270mAh/gの放電が室温で進むことを確認したという。
今回の成果は、小林氏や今井氏の他、東北大学多元物質科学研究所の本間格教授、金属材料研究所の市坪哲教授、東京農工大学の富永洋一教授、物質・材料研究機構の万代俊彦主任研究員、名古屋工業大学大学院工学研究科の中山将伸教授らとの共同研究によるものである。
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