印刷技術で光・電磁波撮像センサーシートを生産:作製効率と耐久性を大幅に改善
中央大学の研究グループは、新たに開発したスクリーン印刷法を用い、「光・電磁波撮像センサーシート」を生産することに成功した。同センサーは非破壊検査カメラシートなどの用途を視野に入れる。
極めて高い歩留まりで、多画素の集積も可能に
中央大学理工学部電気電子情報通信工学科の李恒助教と河野行雄教授および、松崎勇斗大学院生らを中心とする研究グループは2023年9月、新たに開発したスクリーン印刷法を用い、「光・電磁波撮像センサーシート」を生産することに成功したと発表した。同センサーは非破壊検査カメラシートなどの用途を視野に入れる。
ミリ波やテラヘルツ波、赤外線などを活用した光・電磁波センサーは、非金属材料を識別できる。このため、非破壊検査などの用途で用いられる。研究グループはこれまで、素子材料にカーボンナノチューブ(CNT)薄膜を用い、薄くて柔らかく、伸び縮みする超広帯域かつ感度が高い、「ミリ波−赤外帯撮像センサーシート」を開発してきた。ところが、「剥離転写法」を用いた従来の製造方法では、CNT膜と電極配線間で断線が生じるなど、実用レベルでは課題もあった。
そこで新たに適用したのがスクリーン印刷法である。具体的な製造工程はこうだ。まず、レーザー加工で中央部に塗工窓を設けた厚み25μmの高分子マスクを用意する。このマスクを基板上に設置する。その後、回転式の移動バーを用いてマスクに設けた塗工窓越しに、CNT分散液を基板上に刷り込む。スクリーン印刷を行うことで、電極界面における断線に対する耐久性は飛躍的に向上。生産効率も改善できるという。
研究グループは、CNT分散液の粘度とスクリーン印刷の精度について、その関係性を検証した。この結果、最高粘度条件である0.5wt%インクのスクリーン印刷では、ほぼ100%という高い歩留まりでCNT成膜に成功した。逆にインクの粘度が低いと、塗工自体ができなかったり、局所的に欠陥が生じたりした。
加工法による耐久性の違いについても検証した。電極配線には伸縮性のある導電性ペーストを用いてきた。このため、熱を加えて硬化させる時に、体積が収縮しCNT膜へ引っ張り負荷がかかる。従来の「剥離転写方式」だと、CNT膜は負荷に耐えられず断線することが分かった。一方、スクリーン印刷されたCNT膜は、基板への密着度が高く、耐久性に優れることを確認した。
さらに研究グループは、スクリーン印刷によるCNT膜撮像素子の多素子集積と、非破壊検査デバイスへの応用についても成功した。今回は20画素が一軸方向にアレイ集積されたデバイスを作製し、100%の歩留まりで全画素が動作することを確認した。これを用い、不透明なガラスの中に隠されたナイフを明瞭に可視化することにも成功したという。
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