超音波非破壊検査用「滑る超音波透過シート」を開発:インフラの保守点検作業を簡素化
東芝は、超音波非破壊検査装置の探触子に貼り付けて使う「滑る超音波透過シート」を開発した。超音波伝搬性と装置の滑らかな操作性を両立させた。液体塗布などが不要となるため、インフラの保守点検に要する作業を簡素化でき、検査時間の短縮が可能となる。
超音波伝搬性と装置の滑らかな操作性を両立
東芝は2022年11月8日、超音波非破壊検査装置の探触子に貼り付けて使う「滑る超音波透過シート」を開発したと発表した。超音波伝搬性と装置の滑らかな操作性を両立させた。これまで行っていた液体塗布などが不要となるため、インフラの保守点検に要する作業を簡素化でき、検査時間の短縮が可能となる。
超音波非破壊検査装置は、被測定物を壊さず内部に生じた傷や欠陥および、その大きさなどを超音波で検出することができる。医療現場にある超音波診断装置などでも利用されている。
検査手法としては、検査対象に超音波パルスを送信し、内部の傷や欠陥などによって生じる反射波を受信して検出する「パルスエコー方式」などが広く用いられているという。ただ、探触子と被測定物の間に空気などが入り込むと検査が難しくなるため、ゼリーなど液体の接触媒質を用いる必要がある。人体の超音波検査だけでなく、インフラの保守点検でも同様に、接触媒質が必要となる。
一方、被測定物の内部に液体が浸み込んで、構造物などが不良や劣化する可能性もあり、その対策に多くの労力が必要になることもあった。シリコーンゴムシートなど、高分子弾性体の粘着性シートを用いることもあるが、探触子を滑らかに移動させることが難しく、作業性に課題があったという。
今回開発した「滑る超音波透過シート」は、超音波伝搬性と滑りやすさを両立させた。具体的には、柔らかい「粘着性シート」と摩擦係数の小さい「滑り材」で構成。検査時は、このシートを装着した探触子を被測定物の上に置き、移動しながら測定することになる。
この時、探触子は滑り材によって、被測定物の表面を滑らかに移動することができる。検査場所では、探触子に力を加え粘着性シートを検査対象に押し付ける。そうすると、滑り材がシート内部に押し込まれて、空気層が除去され被測定物の表面に密着する。これによって、液体の接触媒質と同じように超音波伝搬性を維持することができる。検査が終わり荷重を取り除くと、滑り材が元の状態に戻るため、探触子を滑らかに移動させることができる。移動の滑らかさは、「PC用マウスを操作する時の感触に似ている」という。
東芝は、開発した「滑る超音波透過シート」を用いて、ステンレス鋼の検査を行った。この結果、力を加えてから超音波が十分に検査対象に伝搬するまでの応答時間は、50ミリ秒以下であった。力を緩めると、探触子は滑らかに移動できるため、1秒間に約10回の検査が可能だという。
従来のように、検査前の養生や検査後に接触媒質を除去する作業は不要となる。超音波透過シートの耐久性を評価したところ、荷重を4万3000回繰り返し行っても性能は劣化しなかったという。
東芝は、風力発電の羽根や飛行機の翼などの保守点検などへの適用を考えており、2024年度中の実用化を目指している。
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