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多チャンネル光インターコネクトの光デバイス技術光伝送技術を知る(24) 光伝送技術の新しい潮流と動向(5)(3/3 ページ)

今回は、光インターコネクトの実現に向けた光デバイスについて、最新の研究開発動向をお伝えする。

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マルチコアファイバという新しい選択

 光伝送の大容量化では多重化が行われる。時分割多重(シリアル化)、波長多重(CWDM、CW WDM)、空間多重である。最近話題になっているのがMulti-Core Fiber(MCF)による空間多重だ。複数のコア(Multi-Core)を1本の細い光ファイバに埋め込むことにより、ファイバ当たりの伝送容量をN倍化する。この場合、コアに光信号を閉じ込め、クロストークを小さくできることを利用している。典型的な例ではコア径9μm、コア間距離は30〜40μmである。

 MCFを用いた16チャネル光伝送が話題となっている[11]。東京工業大学の小山研究室主導の研究成果で、情報通信研究機構(NICT)の委託を受けている。

[11]L. Dong, et al, "16-ch 1060-nm Single-mode Bottom-emitting Metal-aperture VCSEL Array for Co-packaged Optics," OFC 2023, W4B.3

 その概要を図5に示す。シングルモードコアを19本有するファイバ(MCF)のコア16本を用いる。その位置に対応した、それぞれ16個のVCSELとPDを集積化した2次元アレイチップと光結合して伝送したのである。VCSELはInGaAs QW(Quantum well)を活性層とし、Metal-Aperture(MA)構造を持ち、発振波長1060nmで裏面に出射する。出射光はシングルモードでモード径が約5umという。これをシングルモードコア(通常モード径9um)にレンズ無しで結合させている。受信側も裏面入射型InGaAs PDの2次元アレイでファイバから直接光結合している。

図5 MCFを利用した16チャネル光インターコネクト
図5 MCFを利用した16チャネル光インターコネクト

 さらに、図にあるようにインタポーザーの片面に光素子、反対面にドライバーなどのICを実装し、高密度配線を実現した。これにより25Gbit/s×16チャネル、400Gbit/sを達成したという。Shoreline Densityの評価は難しい。少なくともファイバ1本(写真から判定してクラッド径約200-250um)だけを見ればコーティング材などを考慮して、数百ギガビット/s/mmから1Tbit/s/mmに近い値となるだろう。この方式ではShoreline Densityは内蔵ICや実装構造の幅などで決まる。

 実用化にはコアのカットオフ波長など光インターコネクトに適したMCFの標準化、VCSELとコアのモードマッチングや高信頼で低背構造など多くの課題が残っている。それでも、多チャンネルの新しい方式として注目している。

多チャンネル化と光デバイスのまとめ

 以上のように、16以上の多チャンネル化を実現するデバイスの開発が活発になっている。Si-photonicsの発表が多いが、1次元あるいは2次元アレイ化が容易なVCSELもチャンスがあると考えている。

 Si-photonicsは硬いSi基板と安定した集積化プロセスを利用できるので、多チャンネル化に向いている。現在量産化されているMach-Zehnder変調器の実用帯域は35G〜40GHzと言われ、さらに、変調部が長く100Gbit/s PAM-4(50GBaud)が限界で、それ以上の高速信号に向いていないといわれてきた。紹介したIntelやAyarLabsが使用しているMRR変調器は、それを超える性能が期待できるが、各MRRの共振波長を伝送光信号波長に合わせる技術に大きな課題がある。

 一方、注目されているのがSi以外の電気光学効果材料で構成された高速変調器を集積化したHeterogeneous Si-photonicsである。集積化の方法はいくつかあるが、高速光変調に適した材料やチップを使用する。今回紹介したSkorpiosはSi基板上にInPの高速EA(Electro-Absorption)変調器をSi-photonics上に集積化している。また、EO-Polymer、LN(Lithium Nitride)、BTO(Barium Titanate)、PLZT(Lead Lanthanum Zirconium Titanate)などの電気光学効果材料を使用した>100GBaudの高速変調器の学会発表が相次いでいる。実用化には課題もあるが注視している。特に、微細加工が可能なCMOSプロセスと共存できる、量産に向いたデバイス構造や材料・プロセスの議論が欲しいところである。

 従来のGaAs系VCSELは850nmのMulti-mode発振(発光)で、100Gbit/s PAM-4で100mのMMFを伝送できる製品が発表されている。これに対し、紹介した東京工業大学のInGaAs系のVCSELは波長1060nm のSingle-mode発振でさらなる高速・長距離化の可能性もある。また、MCFと組み合わせることで1本のファイバで16チャンネルの伝送を報告している。課題も多いが可能性のある技術であり期待している。

 以上、多チャンネル光インターコネクトを目指した光デバイスを紹介した。これから、実用化に向けてさまざまな機関の研究開発が活発になるとワクワクしている。

 次回は光インターコネクトの実装課題に触れてみたい。

連載「光伝送技術を知る」バックナンバー


筆者プロフィール

高井 厚志(たかい あつし)

 30年以上にわたり、さまざまな光伝送デバイス・モジュールの研究開発などに携わる。光通信分野において、研究、設計、開発、製造、マーケティング、事業戦略に従事した他、事業部長やCTO(最高技術責任者)にも就任。多くの経験とスキルを積み重ねてきた。

 日立製作所から米Opnext(オプネクスト)に異動。さらに、Opnextと米Oclaro(オクラロ)の買収合併により、Oclaroに移る。Opnext/Oclaro時代はシリコンバレーに駐在し、エキサイティングな毎日を楽しんだ。

 さらに、その時々の日米欧中の先端企業と協働および共創で、新製品の開発や新市場の開拓を行ってきた。関連分野のさまざまな学会や標準化にも幅広く貢献。現在はコンサルタントとして活動中である。


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