「半導体業界で世界のハブになる」東北大総長 大野英男氏:国際卓越研究大学の認定候補に選定(3/3 ページ)
東北大学は2023年9月、「国際卓越研究大学」の認定候補に選定された。今回、東北大学の総長を務め、スピントロニクス半導体研究の第一人者でもある大野英男氏に、21世紀の研究大学のあるべき姿や、半導体業界発展のために必要な取り組みについて聞いた。
学生には、自分の“やりたいこと”を追求してほしい
――半導体業界の次世代人材育成については、どのようにお考えですか。
大野氏 半導体業界には、若い人材がこれからどんどん増えていくと考えている。
われわれの世代は、日本が半導体で世界を席巻した時代から、その存在感が都市とともに衰えていった時代を知っている。学生の親世代には、半導体分野が低迷して事業を縮小する時に苦しんだ人もいて、半導体分野にいい印象を持っていない人もいるかもしれない。
しかし、若者はいまを生き、未来を創る存在だ。現在、半導体の重要性が高まっているということを敏感に感じていると思う。私たちのように長らく半導体業界を生きてきた人たちは、その実績や経験を、そして重要性や魅力を、しっかりと若い世代の人たちに伝えていかなければいけない。
――東北大学は、半導体業界における次世代人材育成でどんな強みがありますか。
大野氏 他の大学も含め、半導体の設計に携わる学生は増えている。しかし、裾野が極めて広い半導体分野全体を支えるためには、設計や半導体の製造に関する人材以外にも多くの人材の育成が必要となる。
総合大学である東北大学には、総面積8500m2のクリーンルームがある。材料科学の研究も基礎から応用まで幅広く行われている。設計だけでなく、クリーンルームを活用した材料研究や、デバイス開発、さらにはマーケットを見据えることまでカバーできるところが強みだ。
また、東北大学敷地内にある次世代放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」は、新材料やデバイスの開発の他、医薬品関連分野や食品分野、農林水産業などさまざまな産業領域での活用が期待されている。既に多数の企業との連携の話が進んでいて、2024年の本格運用開始後は、ナノテラスを活用した産学連携が加速し、世界を相手にした価値創造の活動が盛んになる。エコシステムの形成にとっても、人材育成の場としてこれ以上の所はないだろう。
――最後に、学生に向けてメッセージをお願いします。
大野氏 学生諸君には、文系理系に関係なく、自分のやりたいことをみつけ追求していってほしい。その時、社会の一員として生きることを念頭に、やりたいことの追求と「社会に貢献する」ことを両立させる視点を持っていてほしい。
とはいえ、高校生が大学進学を決める時点ではっきりと“やりたいこと”が見つかっている人は少数だと思う。
東北大学は、英国の教育専門誌「Times Higher Education(THE:タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)」が毎年発表している、日本国内で教育力の優れた大学をまとめた「THE世界大学ランキング日本版」で、4年連続で総合1位を獲得している。学生諸君には、ぜひ東北大学で自分の“やりたいこと”を見つけて、自分の人生を、そして社会を豊かにしてほしい。
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