NIMS、磁気により横型熱電変換の性能を大幅向上:電子冷却や熱電発電ができる材料も
物質・材料研究機構(NIMS)は、磁場や磁性によって生じる「横型熱電変換」の性能を大幅に向上できることを実証した。また、永久磁石材料と熱電材料を複合化することで、電子冷却や熱電発電が可能となる新材料「熱電永久磁石」を開発した。
Bi88Sb12合金とBi0.2Sb1.8Te3合金を用い、人工傾斜型多層積層体を作製
物質・材料研究機構(NIMS)は2023年11月、磁場や磁性によって生じる「横型熱電変換」の性能を大幅に向上できることを実証した。また、永久磁石材料と熱電材料を複合化することで、電子冷却や熱電発電が可能となる新材料「熱電永久磁石」を開発したと発表した。
熱電変換技術としては、「ゼーベック効果」や「ペルチェ効果」を応用した製品が知られている。これらは、「縦型熱電効果」と呼ばれ、熱流と電流が同じ方向に変換される。熱電変換効率が高いものの、素子構造が複雑になる。これに対し、横型熱電効果を用いると素子構造は簡単だが、熱電変換効率が実用レベルまで達していなかったという。
NIMSの研究チームは今回、大きな磁気熱電効果が期待できる「Bi88Sb12合金」と、大きなペルチェ効果が得られる「Bi0.2Sb1.8Te3合金」を用い、焼結法によって「人工傾斜型多層積層体」を作製した。
実験では、横型熱電変換の詳細な振る舞いを確認するため、「ロックインサーモグラフィ法」という熱計測技術を行い、人工傾斜型多層積層体における熱電変換過程を可視化した。この計測方法では、入力電流の周波数が高い(f=10.0Hz)と、熱拡散の影響が抑制された過渡状態の温度変化分布が得られ、その熱画像から吸熱・発熱源の位置を特定できる。低い周波数(f=0.1Hz)であれば、定常状態の温度変化分布が得られ、その熱画像から実際に熱電変換を利用する状況に対応した温度分布が得られるという。
具体的に、吸熱・発熱源はBi88Sb12/Bi0.2Sb1.8Te3界面近傍に局在し、それが熱拡散によって広がる。定常状態では切断角度の45°に対応した、三角形型の温度変化分布になることが分かった。可視化したデータにより、横型熱電変換として機能していることも確認できた。
また、電磁石で試料に外部磁場を印加しながら、ロックインサーモグラフィ測定を行い、人工傾斜型多層積層体における熱電変換過程の磁場依存性を検証した。今回は磁気熱電効果のうち、「磁気ペルチェ効果」と「正常エッチングスハウゼン効果」を分離し、各成分の関与を詳細に調べた。これにより、単一の複合材料において、「非対角ペルチェ効果」「磁気ペルチェ効果」「正常エッチングスハウゼン効果」という3種の現象が相加的かつ同時に発現していることを確認。外部磁場の方向を適切に選べば、定常的に電流を流した際に得られる冷却能力を、大幅に向上させられることが分かった。
さらに今回は、人工傾斜型多層積層体中のBi0.2Sb1.8Te3合金をネオジム磁石に置き換えた複合材料を合成した。ネオジム磁石層を磁化させれば、外部より磁場を印加しなくても、Bi88Sb12合金には磁場がかかり続けるようにするためだ。実際に、ネオジム磁石層を磁化させることで、横型熱電変換性能は増強されることを確認した。今回合成した人工傾斜型多層積層体は、永久磁石としての性質も備えており、その磁力も有効活用できるという。
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