誘電体キャパシター、最高のエネルギー密度を実現:厚みが分子レベルのナノシート開発
名古屋大学の研究グループは、物質・材料研究機構(NIMS)と共同で、厚みが分子レベルのナノシートを開発。このシートを積層した誘電体蓄電キャパシターで、世界最高レベルのエネルギー密度を実現した。全固体蓄電デバイスへの応用が期待される。
誘電体としてCa2Nam-3NbmO3m+1ナノシートに注目
名古屋大学未来材料・システム研究所の長田実教授らによる研究グループは2023年5月、物質・材料研究機構(NIMS)の佐々木高義フェローらと共同で、厚みが分子レベルのナノシートを開発した。このシートを積層した誘電体蓄電キャパシターで、174〜272 J/cm3という世界最高レベルのエネルギー密度を実現した。全固体蓄電デバイスへの応用が期待される。
研究グループはこれまで、厚みが1.5〜3nmで高い誘電率と絶縁性を備えたナノシートおよび、デバイスの開発に取り組んできた。この中で、常誘電体ペロブスカイトナノシートが、線形の分極特性を示し、巨大分極(高誘電率化)と高耐電圧化を同時に実現できることを見いだした。
そこで今回、蓄電キャパシター用の誘電体として、ペロブスカイト構造のCa2Nam-3NbmO3m+1(m=3〜6)ナノシートに注目した。開発したCa2Nam-3NbmO3m+1ナノシートは、金属酸素八面体(NbO6八面体)3個から6個分を単体として取り出した、極めて薄い誘電体である。「m」の数を変えれば、厚みが0.4nmのNbO6八面体1個単位で、その構造と誘電特性を制御できるという。
実際に、Ca2Nam-3NbmO3m+1ナノシートでは、誘電率が210であるNbO6八面体3個の「Ca2Nb3O10」ナノシートを基準として、NbO6八面体を1個増やせば、誘電率は約80ずつ増える。そして、NbO6八面体が6個の「Ca2Na3Nb6O19」ナノシートでは、誘電率が470に達した。しかも、Ca2Nam-3NbmO3m+1ナノシートは、400MV/m程度の耐電圧特性を備えていることを確認した。
ナノシートを合成するため、層状ペロブスカイト(KCa2Nam-3NbmO3m+1)を出発原料とした。そして、ソフト化学プロセスを用いて層をはがし、Ca2Nam-3NbmO3m+1を合成した。さらに、ラングミュアプロジェット(LB)法を用い、ナノシートを秩序正しく配列させてキャパシターを作製した。単層膜の作製工程を繰り返すことで、膜厚を制御しながら多層膜を作製する。その上に直径100mmの金電極を形成した。
研究グループは、作製したキャパシターの分極特性を評価した。この結果、「m」の数が3と4、6のナノシートは、分極特性が線形の応答を示し、理想的な常誘電体の挙動となった。しかも、400MV/m程度の高い電界を印加することが可能なことも分かった。一方、「m」の数が5のナノシートはヒステリシス特性を示した。
続いて、エネルギー密度の評価を行った。「m=3」で174、「m=4」で200、「m=5」で215、「m=6」で274となり、「m」の数が増えるとエネルギー密度は増大することを確認した。今回確認したエネルギー密度は、従来の高誘電体や強誘電体薄膜に比べ2〜10倍も大きいことが分かった。
エネルギー密度や出力密度について、ナノシートを用いて新たに開発した誘電体キャパシターと従来品を比較した。この結果、開発した誘電体キャパシターは従来品と同等の高い出力密度を維持しつつ、1〜2桁大きいエネルギー密度を得られることが分かった。しかも、リチウム二次電池や電気二重層キャパシターに匹敵する高いエネルギー密度を実現したという。また、優れたサイクル安定性や300℃までの高温安定性を備えていることも確認した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 名古屋大学、高伝導の高分子電解質膜を開発
名古屋大学は、従来に比べ酸基の密度が5倍以上で、伝導率は6倍以上という「高分子電解質膜」を開発した。次世代の固体高分子形燃料電池や水電解装置に向ける。 - カーボンナノチューブの毒性の原因を解明
立命館大学は、名古屋大学、東北大学と共同で、カーボンナノチューブ(CNT)を認識するヒト免疫受容体を発見した。これにより、CNTによる健康被害の予防法や治療法の開発が進む可能性がある。 - 1滴の溶液と1分の時間でナノシート膜を自動製膜
名古屋大学は、酸化物やグラフェンといった二次元物質(ナノシート)を用い、薄膜を高速に作製する方法を開発した。この技術を用いると、1滴の溶液と1分程度の時間で、さまざまな形状、サイズの基材上にナノシート膜の製膜が可能だという。 - 0.9nm厚のアモルファスシリカナノシートを合成
名古屋大学の研究グループは、厚みが0.9nmという「アモルファスシリカナノシート」の合成に成功した。次世代の電子デバイスやエネルギー分野への応用に期待する。 - 低温水溶液プロセスで、BaTiO3ナノシートを合成
名古屋大学は、60℃という低温の水溶液プロセスで、チタン酸バリウムナノシートの合成に成功した。単位格子3個分の厚みに相当する1.8nmまで薄くしても、強誘電特性は維持されていることを確認した。 - 名古屋大学ら、熱膨張抑制剤の微粒子化に成功
名古屋大学と名古屋大学発ベンチャーのミサリオは、温めると縮む熱膨張抑制剤「ピロリン酸亜鉛マグネシウム」の微粒子化に成功した。