炭素繊維を一方向に配向した圧電プラスチックセンサー:繊維方向の機械的特性は約20倍に
東北大学と大阪工業大学の研究グループは、「一方向炭素繊維強化圧電プラスチックセンサー」を開発した。機械的強度に優れたモーションセンシングシステムを実現することが可能となる。
2枚の圧電ナノコンポジットシート界面に炭素繊維を一方向に配向
東北大学大学院環境科学研究科の余瑶楠大学院生や成田史生教授(工学部材料科学総合学科兼担)らによる研究グループと大阪工業大学工学部機械工学科の上辻靖智教授らによる研究グループは2023年12月、「一方向炭素繊維強化圧電プラスチックセンサー」を開発したと発表した。機械的強度に優れたモーションセンシングシステムを実現することが可能となる。
圧電プラスチックは、振動発電機能やセンシング機能を備えている。このため人体モーションセンサー用素材として期待されている。しかし、機械的強度が低く応用範囲は限られていた。そこで研究グループは、超軽量で優れた機械的安定性を有する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を補強材と電極に用いることとした。
今回開発した一方向炭素繊維強化圧電複合材料は、プラスチック(エポキシ樹脂)に圧電ナノ粒子(ニオブ酸カリウムナトリウム:KNN)を分散した2枚の圧電ナノコンポジットシート界面に、炭素繊維を一方向に配向させて接合し一体化した。この結果、繊維方向には優れた縦弾性係数と引張強度を実現した。繊維の垂直方向にはよく伸びてセンサーの性能が向上することを確認した。
研究グループは、実験結果に基づきマルチスケール・マルチフィジックス有限要素モデルを開発した。開発したモデルを適用し、圧電CFRPユニットセルの異方性電気力学特性を求めた。また、得られた値を3層サンドイッチ構造に適用して解析すれば、炭素繊維強化圧電複合材料の応力状態や変形挙動に加え、出力電圧も予測できるという。
さらに、作製した一方向炭素繊維強化圧電複合材料の引張試験結果と有限要素解析結果を比較した。この結果はよく一致しており、配向させた繊維方向(x方向)には伸びにくく、繊維に垂直方向(y方向)には伸びやすいことが実証された。実験では、試料のx方向とy方向に50Nの荷重を繰り返し与え、出力電圧を測定した。この結果、伸びやすい(柔らかい)方向の出力電圧は、強度が高い繊維方向に比べ20倍以上となった。
研究グループは、作製した一方向炭素繊維強化圧電複合材料を「野球グローブ」や「靴」に取り付け、動き検出を行った。野球グローブでボールをキャッチングした時には約2Vの電圧を出力した。キャッチングのタイミングも、信号の振幅スペクトログラムを用いて正確に認識できるという。
また、右足用の靴にだけ圧電複合材料を取り付けた。右足を踏み出すとその重みで電圧が出力される。歩行中は人体の重心が移動するため、1個のセンサーのみで両足の動きを感知できる。歩き始めると約3Vの電圧が出力される。さらに、振幅スペクトログラムから、脚の歩行パターンも分かるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「超省電力」実現の鍵、スピントロニクス半導体の最前線を聞く
東北大学では、スピントロニクス半導体の研究が活発に行われている。ロジックLSIの消費電力を100分の1以下に削減できるスピントロニクス半導体は、さまざまなシステムの低消費電力化に大きく貢献すると期待されている。同大学の国際集積エレクトロニクス研究開発センター(CIES) センター長 兼 スピントロニクス学術連携研究教育センター 部門長の遠藤哲郎教授に、スピントロニクス半導体の特長や活用について聞いた。 - 「半導体業界で世界のハブになる」東北大総長 大野英男氏
東北大学は2023年9月、「国際卓越研究大学」の認定候補に選定された。今回、東北大学の総長を務め、スピントロニクス半導体研究の第一人者でもある大野英男氏に、21世紀の研究大学のあるべき姿や、半導体業界発展のために必要な取り組みについて聞いた。 - 感度を一桁以上向上、テラヘルツ波検出素子を開発
東北大学と理化学研究所の研究グループは、インジウムリン系高電子移動度トランジスタ(HEMT)をベースとしたテラヘルツ波検出素子で、新たな検出原理が現れることを発見。この原理を適用して、検出感度を従来に比べ一桁以上も高めることに成功した。6G/7G超高速無線通信を実現するための要素技術として注目される。 - 5G/6G用電波は透過、遮熱メタマテリアルを開発
東北大学は、近赤外波長は反射し5G/6G用の電波(可視波長)は透過する、ナノ周期構造の「アルミ製遮熱メタマテリアル」を開発した。建物や自動車の窓ガラスに応用すれば、室内や車内の温度上昇による熱中症の発症や電力の消費量を抑えることが可能となる。 - 電磁波の伝搬方向を曲げる、ひずみフォトニック結晶
東北大学と大阪大学の研究グループは、300GHz帯のテラヘルツ電磁波に作用する「ひずみフォトニック結晶」を作製し、電磁波の伝搬方向を曲げることに成功した。テラヘルツ電磁波を用いる6G(第6世代移動通信)において、電磁波を制御するための基盤技術となる可能性が高いとみている。 - 酸化物で初、熱的相変化で電気抵抗スイッチング
東北大学は筑波大学と共同で、酸化物では初めて熱的相変化を活用した電気抵抗スイッチングに成功した。多値記憶が可能な相変化メモリへの応用が期待される。